第2話1 九十九というもの

文字数 990文字

「あと九十九に関する大事なことっていったら、古いものほど強力であることと、名のある九十九が仕える人も認められることかな」
「昔から存在するものには価値があって強いのはなんとなくわかるけど、九十九が仕えている人にも何か特典みたいなものがあるの?」
「つまりですな、九十九が仕えるほど立派な家格がある、あるいは優れた人物という評価が得られるのです。九十九を持つ多くは古い血筋の家です。土地を治める領主、それを支える家老、侍大将などですな。一国の主ともなれば複数の九十九を持つこともあります。藤川様も俺以外の九十九が仕えていますしな。不吹殿であれば己を捧げたいという者が出てきてもおかしくはないでしょう。どんな奴がやってくるか楽しみですなぁ」
「正直、主を持たない野良の九十九にはあんまり近寄りたくないんだけどね」
「どうして?」
「だって怖いんだもん」
「主を持たない九十九は安定しておりませんからなぁ。強くもあり脆くもある。九十九は仕える主を得てはじめて一人前とされるのです」
「主のあるなしが能力に影響するってことですか」
「主がいれば安定して実力を発揮することができますが、主がいない場合は本来持つ実力を発揮できないことがあります。逆に何倍、何十倍もの力を発揮することもありますがね。それは新たな主に己を認めてもらうためだという話もありますな。どう化けるかわからぬ相手と戦いたいと思う者はあまりおらんのでしょう」
「九十九が仕えている人も評価されるのなら、格付け目的で求めたりはしないんですか」
「武具関係の九十九の場合、主として相応しくない人は逆に殺されちゃったりするからね」
「持つ側も実力者でなければならないのですよ。己を捧げるに相応しい人でなければね。それは武力だけには限りません。だから九十九が仕える人物は評価されるわけです」
「……なるほど。野良の九十九にはなるべく近寄らないようにします」
「不吹殿であれば問題ないでしょう。俺が保証します」
「では筒針さんは僕に仕えてくれますか」
「ははは。そういうわけには参りませんなぁ。この身は藤川(ふじかわ)白扇(はくせん)様に捧げております故。ただし我が身が滅び、人槍・兼八が新たに憑いた者が不吹殿を主と認めることはあるかもしれませんぞ」
「取り憑いた人が変わる度に主を探すんですか?」
「そういうものなのです。ほとんどが元の主に仕えることになりますがね」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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