第4話1 土蜘蛛の長
文字数 981文字
手を振りながら駆けてくるのは僕に仕えている翠寿だ。
翠寿は人ではない。
八岐という人外の化生だ。その中でも人狼と呼ばれている。
狼のように鼻が利き、小さな音も聞き漏らさず、身軽で素早い動きを得意とする。
ほの香姫に掴まれていない左手で翠寿の頭を撫でてあげる。
サラサラと音を立てるような髪の手触りは相変わらずよい。
嬉しいのか特徴的な耳がピクピクと反応している。
ほの香姫が無言で僕の右腕をかき抱くと肘のあたりに柔らかなものに挟まれた。
今のわざとやっていませんかね?
一瞬の間。それからほの香姫の頬が赤く染まった。
抱えていた手を離し、ジリジリと後退していく。
背後に立っていた天色の君の所まで下がってようやく止まる。
さっと踵を返すと建物へ小走りで向かう。
天色の君は僕たちへ向けて頭を下げてから後を追いかけた。
実際、翠寿にはフル回転で働いてもらっている。
僕の世話をする付き人としても、操心館で働く小者としても、情報収集をする忍びとしても。