第18話3
文字数 979文字
澪の声が届いていない。
何より動きにいつもの精彩さがない。
足がもつれそうで、今にも転びそうだ。
紅寿は振り返らない。
構えた槍が狙うのは黒霧の武者の左足だ。
槍を突き出して勢いそのままにぶつかる。
葵に抱えられた翠寿もまた遠吠えを上げる。
澪には〈
言葉を介さなくても動物とある程度の意思疎通が可能だ。
するりと葵の手から抜け出た翠寿が駆け出す。その動きは滑らかで躊躇いがない。
身軽になった葵は地面を蹴って翠寿とは反対側に跳ぶ。
黒い武者の拳が何もない地面に振り下ろされる。
激突音はない。衝撃もない。
踏ん張りながら腰に差した刀を葵が一閃させる。
ズバンと大気が鳴る。
空間ごと影の腕を切り裂いた。
巨木のような太い腕が吹き飛んだかと思うほどの一撃。
けれど刃が通過した部分の黒霧が一直線に切り裂かれただけだ。
今度は翠寿が槍を構えて右足へと突っ込んでいく。
先ほどの紅寿と同じように体ごとぶつかる。
霧化した魔物なら凍結させてから攻撃したり、核となる部分を見つけてそこを狙ったりするのがセオリーだ。
あるいは風を操って吹き飛ばすなんて大雑把な作戦もある。