第20話1 連夜の酒宴

文字数 557文字

「奥山田さん! どうしてここに?」
「君たちだけで水蛟様に会いに行くなんてずるいじゃないか。だから思い切って来ちゃったわけ」
「来ちゃったって……それにその荷物は一体……」
「手ぶらじゃ失礼だろうと思ってさ。ほら、この通り! 酒を持参したの」

 彼が背負ってきたのは鏡開きなどで使われる大きな四斗樽ではなく一斗樽だった。それでも十八リットル、百人前はある。


「怪我が治ったばかりで、よくそんなものを担いでここまで来ましたね」

「だって水蛟様に会えるんだよ。これぐらいなんてことはないさ。もちろん酒だけじゃないよ。ほれ。あとほれ。こう見えて料理は得意なんだ。つまみも俺に任せてくれ」


 紐に通した魚に野菜が詰め込まれた竹籠を両手に持っている。
「これは関谷の酒だな。ウムウム、この酒も悪くない。其方、名はなんという」
「お、おお俺――じゃない。自分は、おお奥山田北洋といいます!」
「ウム、大奥山田か。気に入った。其方も酒に付き合え」
「いいんですか!」
「遠くから友が来る、戦いに勝つ、門出を祝う。小僧。そういう時は何をすべきだ?」
「酒宴……ですかね」
「そうだ。酒宴だ! 今日も飲むぞ!」

「おおー! 飲みましょう! 朝までだって付き合いますよ~!」


 というわけで二日続けての酒宴となった。


 連夜の宴会で澪が醜態を晒したのは言うまでもない。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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