第27話3

文字数 674文字

「ここまでのようですね」

 苦し気な声。

 雷の直撃は避けたものの体の自由は効かないのかもしれない。

 何しろ斬った相手は雷なのだ。平気でいられるはずがない。


 動けないのなら今がチャンスだ。攻勢に出て三島さんたちの仇を討つ。

 立ち上がって獅童を構えた。

 僕の動きを見て澪たちもそれぞれの武器を構える。

「またいずれ会いましょう。それまでは誰にも討たれないでください」
「逃げる気か!」
「ええ。目的を果たすまでは。それでは」
 姿が消えた。〈縮地〉を使ったのだろう。
「近くにはいないようです。言葉通り、この場を離れたのだと思います」
「あたしもそーおもうだらぁ」
「なんとか助かったみたいだね。みんなが無事でよかったぁ」
 言いながら澪が紅寿と翠寿を抱きしめると、二人の尻尾は嬉しそうに揺れていた。
「十水さんのお陰で助かりました」
「カカッ。別によい。儂も余興のつもりだったからな」

 出血が酷かったせいか体がフラフラする。

 ぐらりと上体が傾いた瞬間、葵が支えてくれた。

「ありがとう」
「いいえ。ですがあまり無理はなさいませんよう」
 曖昧に微笑んでおく。もうひと頑張りしなければならないからだ。
「あの、十水さんに一つお願いがあるのですが」
「なんだ」
「水蛟の力であの火って消せますか?」

 浜田屋はまだ炎を上げて燃え続けている。

 幸い隣の建物は葵が壊してくれたので延焼はしないだろうけど、あのまま放置しておく訳にもいかないだろう。

「そのぐらいはかまわんが……言っておくが、儂は大雑把だからな。あとで文句を言われても知らんぞ」
 どうやら逢初に言われたことが引っかかっていたようだ。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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