第2話2

文字数 798文字

「そこ! そこそこそこっ!」

 連続した突きを天色が放つ。

 深藍は慌てない。

 左右に体を揺すってかわし、後ろに飛んで間合いを切る。

「しかし、ほの香姫がこんなに早く操心館へ来られるとは思っていませんでしたよ」

 彼女の兄である藤川(ふじかわ)白糸(しらいと)様の計画では、ほの香姫を操心館へ入れるのは少し先の予定だった。


 たまたま城下町で知った新しい製法による人形が近々発売されることを報告する際、試作品をお披露目するのと同時にほの香姫が天色の機巧姫の連れ合いになったことを伝え、操心館へ入れてもらえるように交渉をするはずだったのだ。


 新製法の人形は手、足、体、頭という部位ごとに製作するというものだ。

 しかも各部位を型取りし、陶器として焼き上げる。


 こうすることで量産ができ、しかもパーツの組み合わせである程度好みに応じた人形を作れる画期的なものだ。

「どうも井田(いだ)様の耳に新しい人形の情報が入ったと思われたので計画を前倒しせざるを得なかったそうです。事前に断りなく実行することになり申し訳なかったと不吹殿に伝えて欲しいと白糸様が言っておられました」
「それはいいんですけど、肝心の藤川様の反応はどうだったんでしょう」
「新しい人形のことを知ってお喜びになり、早速、ご自分も注文したそうですよ」
「……その時のやり取りが目に浮かびますね。ほの香姫については大事にならなかったんでしょうか」


「いいえ、特には。むしろ機巧操士が増えたことを喜ばれていたそうですよ」
「それはよかったです」

 三桜村での戦いから既に三週間あまり経っていた。今も関谷は霧峰に狙われている。


 霧峰とは角田川(かくたがわ)を国境としているけど、そこに築かれた久納砦をこれまでに二度攻め込まれた。

 幸い二度とも追い払うことに成功している。


 霧峰は大国だけあって擁する機巧武者も多い。

 早いうちにこの戦力差をなんとかしなければならなかった。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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