第26話1 五対一

文字数 896文字

「清正さま……大丈夫なの?」
「なんてことは、ないよ……」
「清正君は黙ってて! すぐに〈手当〉で――きゃ!?」
 しゃがんでいる澪の体を押しのけるように蓑を羽織ったままの紅寿が飛び込んでくる。


 鋭い金属音。

 槍を持った紅寿が飛来してきた何かを弾く。

「――っ」

 すかさず懐から取り出した苦無を放つと離れた場所から微かに音がした。
「一体……何が……」
「こっちはこっちで戦ってる最中だったの! ありがとうね、紅寿」
「くっ……あいつの仲間か……」
「いいから清正君はじっとしてて。〈手当〉ができないでしょ! あー、もう。鎧が邪魔で……翠寿、手を貸してっ」
「うん!」
「ちょ、待ってまって! それ痛い……」
「我慢して!」
「あ、はい。ついでに兜もとってもらえると嬉しいかな」
「これでいい?」
「ありがとう」
「ひどい傷だけど大丈夫。このぐらいならすぐに動けるようになるから」

 目を瞑った澪がお腹に触れる。冷たい手が熱を持った患部に心地よい。

 仄かな光が漏れ出すと触れられた場所が温かくなる。

「葵はどこにいるの?」
「あっちで戦っとるよ。あたしたちも助太刀しとったけど澪さまの声がきこえたもんで、あわててこっちにきたじゃんね」
「じゃあ、葵は一人で戦っているのか。すぐに助けにいかないと……」
「そんなにつよくなかったもんで葵の君さまにまかせといたら大丈夫じゃん。今も紅おね-ちゃんが一人たおしたし」
「そうなの?」
「だもんで清正さまはむりせんほうがいいだらぁ」
「そっか。ありがとう。お陰で楽になってきたよ」
 余裕ができたので周囲を見ると浜田屋の隣の建物がバラバラになっているのに気が付く。
「あれをやったのってもしかして……」

「うん。葵の君さまだらぁ」

 破城槌を使ったわけでもないだろうに建物は瓦礫と化している。

 あれなら延焼することはないと思うけど、どうやればああも見事に壊せるのか。

「こう、刀をびゅびゅってやって葵の君さまがこわしてくれたじゃんね。」
「刀で斬ったの!? 神代式の機巧姫ってとんでもないな……」
「そしたらいきなりきりかかってくる人がおっただらぁ。でも葵の君さまはどえらいつよいもんでかえりうちにしたじゃんね」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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