第21話3

文字数 627文字

 部屋に残っているのは、ほの香姫、筒針さん、僕、それから澪だけだ。

 葵たちには別室に控えている。

 奥山田さんも関係者と間違われて道中で襲われる危険を考えてこの屋敷に留まってもらった。

「三島は大丈夫でしょうか」
「いささか入れ込んでいる様子ですが、九十九の俺が手合わせをしてみたいと思うほどには三島殿は達人ですよ。よほどのことがなければ大丈夫でしょう。それより本当に姫様も巡回に参加するおつもりですか」
「もちろんです」
「言ってもやめないでしょうしなぁ。それで、どう分けます」
「当然、わたくしは清ま――」

「澪はほの香姫と一緒に行動してほしい」

 わざとほの香姫の発言に被せた。
「相手はかなり強い。戦えば無傷で済むとは限らないから、癒しの力を持つ澪はほの香姫と一緒に行動してもらいたいんだ」
「いいの?」

「何かあった場合の連絡手段として人狼の〈遠吠え〉が必須だから、いつものように僕は翠寿と、澪は紅寿と一緒に行動してもらう」


 つまり組分けはこうだ。


 僕、葵、翠寿。

 ほの香姫、天色の君、筒針さん、澪、紅寿。

「妥当なところですな」


 筒針さんの口調に面白がっているような様子はなく、真剣味が感じられる。

 これでもかという具合に尖がっていたほの香姫の口先が開くことはなかった。

「今日はもう休みましょう。しっかり体を休めておかないと、いざという時に困りますからね」
「そうだね」

 澪は献杯の時に口をつけたきりだった盃を置いた。

 盃の中で揺らめく酒に蝋燭の明かりが煌めいていた。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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