第17話3

文字数 940文字

「私はやっぱり弓かな。この繊月にする」
「変わった形をした弓だね」
 澪が手にした弓の先端には槍の穂のような刃物が付いている。
「これは弭槍(はずやり)だよ。こうして取り外せるの」

 言いながら外してみせてくれた。

 なるほど、袋状の槍の穂先を弓の先端にはめ込むのか。

「戦いの最中に弦が切れたり、矢を打ち尽くしたりした場合には槍のようにして戦うんだよ」
「なるほど。実戦的だね。葵はどんな武器が得意なの」
「刀と弓なら人並みに扱えると思います」
「槍は苦手ってこと?」
「いいえ。ですが刀や弓ほどではありません」

 それならば編成案は二つ考えられる。


 一つは澪と葵に弓を持ってもらい、前衛を僕と紅寿と翠寿の三人で支える形。

 もう一つは後衛を澪に任せ、葵には刀で前衛に立ってもらい、他の三人がフォローする形だ。

「だったらこれ! これがいいと思う!」
 顔を紅潮させた澪がさっきの刀――龍霞を手にして主張する。
「持たせていただいてもよろしいですか」

 渡された龍霞を抜き払う。


 全体の印象としては細身だけど鍔元は太く踏ん張りが強い。反りが高くて美しい刀身だ。

 なるほど、天刀とされるだけあって威厳のある姿をしている。

「これはいい刀ですね。手に馴染みます」
「じゃあ、葵にはその刀で前衛を任せるよ。澪は後ろから弓で援護して」

 さて、残るは紅寿と翠寿だ。

 人狼のスピードを活かした武具の選択が最良だろう。

「あたしは、これが、いいじゃん!」

 蔵の奥から出てきた翠寿は長大な大太刀を抱きかかえていた。

「流石にそれは無理があるんじゃないかな」
「でも、かっこいい、だらぁ!」
「ちゃんと抜ける?」
「はい! うんしょ。うんしょ」

 蔵の外に出た翠寿は地面に大太刀を置いて長い柄を両手で握り、まるで綱引きでもするかのように鞘から抜いていく。

「ぬけました!」
「持ち上げられるの?」
「よい……しょ!」
「お、おおおお……すごい。持ち上げた」
「できまし……たぁ!」

「こんな鉄の塊をよく持ち上げるなあ」


 でも持ち上げるのが精一杯のようで、顔を真っ赤にしてプルプル体が震えている。
「その大太刀で戦えそう?」
「う、ううう……むり、です」

 力を抜くと刀身が音を立てて地面に埋まる。

 ちょうど下にあった床石がぱっくりと割れていた。恐ろしい切れ味だ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色