第7話3

文字数 727文字

「どこかに出かけているのかな」
 吹いてくる風に生臭いというか鉄のようなにおいを感じて顔を顰める。
「つめたっ」
 ぽつりぽつりと雨が落ち始める。
「どうする? ここ借りちゃう?」
「勝手に入るのは駄目でしょ。このまま町へ向かおう」

 先頭に立って歩き始める。

 暗くて足元がよくわからないので歩みは速くない。


「こういう時、夜目が利くと便利なのにね」


「あらひひひまふ!」

「そうなの?」


「夜目が利く種族は多いからね。私は全然ダメだけど」


 つまり技能とは別の種族特性ということか。人狼は本当に優秀だなあ。


「何か気になるものが見えたら教えてね」


「はひ!」

「清正君。雨が強くなってきてる」


 一瞬、周囲が明るくなった。

 それからゴロゴロゴロという腹に響く音が轟く。


「雷だ。いそ――」


 誰かが足にしがみついていて動けない。


「……翠寿?」


 体を小さく丸めた翠寿が僕の右足を抱え込んで震えている。


「大丈夫だいじょうぶ。平気だからね」


 同じような状態の紅寿は澪にしがみついていた。


「急に大きな音がしたからびっくりしちゃったよね」


 頭巾を被った頭を澪が撫でてあげると、紅寿はゆっくりと体を離して頭を下げた。

 僕も澪に倣って翠寿の頭を撫でてあげる。


「雷が怖いようなら僕が背負ってあげようか? おへそを隠しておけば雷は怖くないよ」


「だ、だいじょうぶ、です」


 再び雷鳴。


「ひゃ!?」


 離しかけていた手でしがみつかれる。


「仕方ない。どこか雨宿りできる場所に――」


「お待ちください」

 言いながら葵が僕の前に出た。

 僅かに腰を落とし、前方を警戒している。


 それを見て紅寿と翠寿が葵の左右に立つ。

 小刻みに手足が震えているにも関わらず僕と澪を守るように構える。

「どうしたの?」


「何者かの気配があります」


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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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