第21話4

文字数 758文字

「んんん~~~~」

 外に出ながら大きく背を伸ばす。

 太陽はまだ姿を隠しているけど、東の空は輝き始めていた。

「清正さま、おでかけするです?」
「門の前までだけど翠寿も来るかい」
 そろそろ見回りに出ていた三島さんたちが戻る刻限だ。
「はい!」
 吹き寄せる海風にも慣れてきたように思う。
「うー……」
「まだ慣れない?」
「ちっともなれへんだらぁ」
 この町にいる限り人狼の鼻で犯人を追跡することは諦めるしかなさそうだ。
「おはようございます」
 門番に声をかけると、背筋をしゃんと伸ばして挨拶をしてくれた。
「今日の天気は荒れそうです。お出かけになるのなら雨具をお持ちください」
「三島様はまだお戻りになってませんか」
「はい」
「そうですか……」

 夜が明ける頃には戻る予定になっていたはずだ。

 なんだか胸騒ぎがする。

「翠寿。みんなを起こすんだ。三島様を捜しに行こう」
「わかったです!」
 朝食をとる時間も惜しんで支度を整え、代官屋敷を出る。
「巡回先は聞いています。それを辿っていきましょう。まずはこのまま南の浜へ出ます」

 浜辺へ続く階段を一つ飛ばしで降りていく。

 最後の数段を飛び降りると砂が散った。

「この浜辺から東の船着き場へ向かいます」
「あれは?」

 向かう先に人だかりがある。

 恐らく漁師だろう。誰もが日焼けをした逞しい体つきをしている。

 繰り返し打ち寄せる波の音が彼らの発する声をかき消していた。

 砂を蹴立てて駆け寄る。

「どうかしましたか」
 僕が声をかけると人垣が外側から割れていき、中心にいるものが目に入った。
「まさか――」
「三島ではありませんか!? 三島! どうしたのですか!?」
「澪!」
「わかってるっ」
「三島は生きているのですか!? 無事なのですか!?」

 澪は頭を振った。


「そんな……」
「槍で腹を一突き。三島殿も剣を抜けず仕舞いか」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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