第22話5

文字数 895文字

「自分たちだけで決着をつけたいとのことですけど、僕たちの手も借りないってことですか?」
「……はっ」
「そうですか。三島様にはお世話になったので僕も恩をお返ししたいと思っているんです。義理は果たしておきたいですからね。だから貴方たちが仇討ちに向かうと言うのなら勝手に手助けをしますけど」
「おおっ。それでは我らと共にこれから――」
「でもその場合は僕も死ぬでしょうけどね」
「な、なにゆえでございましょうか。不吹殿は機巧操士ではありませぬかっ」

 なるほど、機巧武者は一騎当千の強者だ。

 しかも僕の機巧姫は神代式の葵だから、そこらの機巧武者においそれと後れを取ることはないだろう。


 でもずっと機巧武者でいられるわけではないから、いずれ姿を解かなければならない。

 そして僕は機巧武者の姿を解いたら疲労困憊で動けなくなる。その時を狙われたら?


 だから戦力が足りない今は戦ってはいけないのだ。死んでしまっては元も子もないのだから。

「機巧操士とはいっても人の子です。どこかに隠れ潜む敵を探し出すことはできませんし、不意打ちされれば生身で戦わなければなりません。僕は剣の腕が立つわけではないのです」
「そうですか……」

 落胆したのがありありとわかった。だけど実力以上のものを求められても応えられない。


 敵を知り己を知れば百戦危うからず。

 現状把握はとても大切だ。それは戦いに限らず仕事でも同じだ。

 予算を超える規模の企画にゴーサインは出ないし、工数の見積もりを誤ればスケジュールかクオリティに致命的な問題が発生するのだから。

「数日もすれば藤川様が援軍を送ってくださるはずです。今は敵の情報収集に努め、確実に討ち取れる準備をしておきましょう。僕たちはこの町に詳しくありませんから、お二人が頼りなのです。どんな些細なことでも構いません。何かわかれば教えてください」
「ははっ。それでは失礼いたします」
「あの人たち大丈夫かな」
「わからないよ。家族も同然だった三島様が殺されてるんだからね。でもあの二人も大事な戦力なんだ。いざという時には存分に力を発揮してほしいね」
 僕の願望が裏切られたのを知るのはその日の夜のことだった。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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