第24話1 正体

文字数 767文字

「わぷっ。全然前が見えない……」
 外へ出た途端、殴りつけるような雨が視界を奪う。
「この雨が水蛟の能力によるものなら、今すぐ止めてくれると助かるんだけどなあ」
「主様。吾が先頭に立ちましょうか。雨風は気になりませんから」
「そうなの?」

「はい」

「助かるよ。じゃあ、先頭を任せた」
「はい」

 葵が先に立って門を出たと思ったらすぐに立ち止まる。

「どうしたの?」
「何者かが来ます」

 腰を落とした葵は右手を天刀・龍霞の柄にかけている。

 背中から矢箱を下ろした紅寿と蓑笠姿の翠寿が葵の左右に並ぶ。

 僕の背後で澪が矢を番え、いつでも放てるように構えていた。


 何も言わなくても黒霧の武者と戦った時のようなフォーメーションになっている。


 甚雨の向こうに霞む人影が見えた。数は一つ。

「た、た……くだ……けて……」
「あれは旅籠の主人ではないでしょうか」
「おやく……お、おた……おわっ!?」

 階段で足を滑らせる。


「……がっ……うぐ……ぎゃ!?」

「大変っ」

「罠かもしれないから気を付けて! 紅寿、翠寿!」
「……っ」
「わかっとるだらぁ!」
 地面を蹴った次の瞬間、二人は澪に追いつき周囲を警戒しながら並走する。
「大丈夫ですか!? どこか痛いところはありますか?」
「う……ぐぅぅ……やどが……おそわれ……ひ……ひが……」
「襲われたって浜田屋がですか? 八鶴さんは無事なんですか!?」
「わ、わからな……おさむらぃ……おねが……で……ふたり……」
「お侍? ここに来るまでに誰かに手助けを求めたんですか?」
「……ぁ……ぅぅ……」

 最後まで言い終える前に全身から力が抜け意識を失う。


「これ以上は無理だよ。私はこの人を癒すから清正君は先に浜田屋へ向かってっ」
「わかった。紅寿はここに残って澪と一緒に行動して。ちゃんと守ってあげてね」
「……っ」
 紅寿が頷くのを確認してから駆け出した。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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