第22話1 仇討ち

文字数 905文字

 閉めた障子の向こうから雨音が絶え間なく聞こえている。


 殺されたのは三島さんだけではなかった。

 彼と一緒に見回りをしていた家来の二人も殺害されていたのだ。

 ただし殺害方法はこれまでと異なっていた。


 三島さんたちの体を清め、着替えさせる際に筒針さんが教えてくれたことだ。

「こちらの刀傷ですが、複数から斬り付けられたものですな」
「そんなことがわかるんですか」

「この者の胸にある二つの傷ですが、まず縦に斬ってから横に斬られています。ですが傷口の深さと形が違う。これは違う者によって斬られたという証拠です」


 つまり犯人は少なく見積もっても槍使いの他に二人いることになる。


 三島さんの傷にも気になることがあったらしい。

「槍は腹から背へ抜けているんですがね、その傷跡が気になるんですよ。ほら、腹側と背中側の傷の位置を見てください。背中側の方が高いでしょう。この傷跡から考えるに相手は小柄な人物。あるいはかなり低い姿勢で攻撃してきたんでしょうな」
「例えば倒れていた人がいきなり攻撃してきたとか」
「考えられます。とはいえ三島殿ほどの使い手が何の警戒もなく相手に近寄ったのかという疑問は残りますが」

 沈黙が部屋を支配していた。


 幸いと言えるかどうかはわからないけど、三島さんと別班だった片寄さんと外山さんは無事だった。

 とはいえ三島さんの家族とも言える人たちはもう三人しか残っていない。

「清正様。わたくしは三島の仇をとってやりたいと思います」
「僕も同じ気持ちです」
「ですが、あの三島が為す術なく殺された以上、わたくしが立ち合って勝てるとは思えません。清正様、知恵をお授けくださいませんか」

 ほの香姫、筒針さん、澪。そして片寄さんと外山さん。

 ここにいる人以外に戦力として計算できるのは、別の部屋で控えている機巧姫の葵と天色の君。それから紅寿と翠寿。三島さんに仕えていた小者が一人。これだけだ。


 額の真ん中に指を当てて考える。


 相手は手練れ。数は少なくとも三人以上。

 そのうちの一人はもしかすると、あの天槍(てんそう)逢初(あいそめ)と並ぶ使い手かもしれない。


 この想定が正しければ、槍使いと一対一で戦えるのは葵ぐらいなものだ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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