第22話2

文字数 805文字

「とにかく船坂の状況を藤川国王へ報告しましょう。そして戦える者を送ってもらうんです。ここにいる者だけで戦うことは考えない方がいいと思います」
「戦える人以外も必要だよね。だって代官だった三島様が亡くなってるんだもん。この町を治める人にも来てもらわないといけないよ」
「そうだね。それもあわせて報告をしてもらおう」

 船坂の置かれた状況を正しく伝え、適切な戦力を送ってもらわなければならない。

 これはただの伝令ではないのだ。

「この役目、ほの香姫にお願いいたします」
「……理由を伺ってもよろしいでしょうか」
「二つあります。一つは藤川様へ正確に情報を伝え、かつ必要な戦力を送るよう説得できる人を選ぶ必要があります。その点、娘であるほの香姫は最適な人材だと判断しました」
「お父様は相手によって判断を誤る方ではありませんが納得いたしました。もう一つは?」
「この雨の中をなるべく早くお城まで行って貰わなければならないからです。それには馬が最適です。ここにいる人で騎乗が許されているのは機巧姫を除くと四人しかいません」

 士分のうち馬に乗れるのは上級武士のみ。

 つまり、ほの香姫、筒針さん、澪、そして僕だ。

 片寄さんと外山さんは下級武士なので馬に乗ることはできない。

 ちなみに機巧姫は侍扱いなので騎乗を許されている。

「このうち癒しの力を持つ澪には戦いに備えて残ってもらう必要があります。筒針さんはほの香姫の護衛役ですから単独で行動できません。最後に僕は――僕は馬に乗れないので」
「え? 今、なんと?」
「僕は馬に乗ったことがないんです。だからほの香姫に行っていただく他ないのです」

「まあ……ふ、ふふふ……ふふふふ」

 忍びやかな笑い声が部屋にこぼれる。

 ひとしきり笑った後、ほの香姫の表情が引き締まる。

「承りました。お父様に船坂で起きていることを伝え、必ずや援軍を連れて戻って参ります。それまでは無茶をなさらないでください。約束ですよ」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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