第26話5

文字数 668文字

「三島様たちもお腹を一突きだった。だからお前はここぞという時はお腹を狙ってくるんだろうなって思ったんだよ。的が大きいとか、回避しにくいとか理由は色々あるんだろうけどさ」
「ああ、なるほど。よく私のことをわかっておいでです。ならばこそ、死合いのしがいもあるというもの」

 また姿が消える。〈縮地〉だ。

 この距離では〈神速〉を使える紅寿でも間に合わない。

 獅童でお腹を狙った槍を防ぐ。

「同じことの繰り返しだな」
「そうですね。でもいつまでかわし続けられるでしょうか。だってほら――」
「痛っ」
 僅かだけど穂先がお腹に食い込んでいる。
「やっ」

 槍が横から突き出される。

 逢初の姿が消え、少し離れた場所にまた現れる。

「これ以上、清正君を傷つけさせないんだからっ」
 弓の先に付いた弭槍を澪が突き出していた。
「相手を殺す気概が感じられる思い切りのいい、よい踏み込みでした。しかし弭槍とはまた珍しい武具を見たものです」
 今のやり取りの間に葵たちが駆け寄り前に並ぶ。
「お二人とも、お願いします」
「……!」
「わかっとるもん! ぜったいに清正さまをおまもりするじゃん!」
 紅寿と翠寿は槍を扱きながら葵に続いた。
「今度こそ中ててみせるっ」

 澪が矢を番える。


 五対一。

 刀、槍、弓と武具を各種揃え、数では圧倒しているはずなのに押されているのは僕たちだった。

「さて、仕切り直しといきましょう」

 逢初は右足を引いて半身になった。

 まるで薙刀の八相のような構えをとると穂先が天を差す。


 その時だった。

 暗い空に無数の光が走る。

 そして耳をつんざく轟音と共に一条の光が落ちた。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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