第21話1 巡回

文字数 718文字

 部屋の中央に置かれた三振りの刀の周囲に僕たちは車座になっていた。

「格別なお心遣い、感謝の言葉もありません」

「国のために働いていた者が亡くなったのですから弔うのは当たり前です」


 この場にいる者全員の盃がお酒で満たされる。

 無言で献杯をする三島さんに倣って盃を傾けた。


 これは酒宴ではない。

 亡くなった人を悼む葬式だった。

山綱(やまつな)小丸(こまる)、それから柿田(かきた)は剣の腕を見込んで家来に迎えました。その三人がろくな抵抗もできずに殺されるとは思ってもみませんでしたが……」

 侍大将よりも上位の役職となる中老(ちゅうろう)の三島さんには直属の配下――家来が八人いた。

 この八人は三島さんが生活の面倒まで見ている家族のような存在であり、戦があれば彼らを率いて参陣する運命共同体でもあった。

 けれど今となっては武士が二人、小者が三人しか残っていない。

「三島様。それでは私たちはこれで」
「頼むぞ。敵は強い。決して単独で行動をするな」
「はっ」

 片寄さんと外山(そとやま)さんは神妙な顔つきのまま部屋を出ていく。

 先発する彼らは小者の一人を加えて三人で、三島さんは二人の小者と巡回する予定だ。

「では私も失礼するとしましょう。これからあの方のところへ行ってきますので。まったく、今度はどんな用件での呼び出しなのか……」
 不満を口にしながら滝さんも部屋を辞した。
「改めて不吹殿にもご助力いただけるとのこと。心より感謝いたします」
「いいえ。三島様には須玉匠のことでお世話になりましたから力を貸すのは当然です。できる限りのことをしますので、巡回でもなんでも遠慮なく使ってください」
「かたじけない」
 明日の夜は僕たちが巡回する予定になっている。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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