第16話3

文字数 876文字

「お腹空いたな……」
「おはようございます、主様」
「おはよう。何を作ってるの」

「朝餉をと思いまして昨夜の残り物に火を入れていました。もうしばらくお待ちください」


 部屋の隅で澪はまだ丸くなっている。

 翠寿と紅寿はどこだろう。

「翠寿たちは竜泉寺様に言われて外で作業をしています。申し訳ありませんが、顔を洗ったら彼女たちに朝の支度ができると声をかけていただけますか」
「わかったよ」

 外に出て伸びをする。

 太陽はかなり高い位置にあった。結構、遅くまで寝ていたようだ。

「翠寿ー、紅寿ー」
「はーい!」

 声は建物の裏手から聞こえてくる。

 そちらへ足を向けると天秤棒を担いだ二人がやってくるところだった。

「水汲みをしてたんだ」
「はい。紅おねーちゃんと二人で運んどったもんで、これがさいごじゃんね」
「そっか。葵が朝食を作ってくれてるから、それを運び終わったらごはんにしよう」
「はーい!」

 庵に戻ると囲炉裏で料理をしている葵の隣を十水さんが陣取っていた。


「いい匂いではないか。どれどれ……ウム、旨い! って、ァ痛ッ!

 葵は笑顔のまま十水さんの手を(はた)いた。家主相手でも容赦がない。


 壁を向いて寝ている澪に声をかける。

「澪、おはよう。そろそろ起きなよ」
「うぅっ……あたま、いたい……」

 水の入った湯飲みを手渡す。

 受け取った澪は神妙な顔をして飲み干した。

「ふぅ。冷たくておいしい。……なに、変な顔して」
「紅寿たちはこうやって澪の面倒をみていたんだろうなって思っただけ」

「それは…………ごめんなさい」


「さあ、できましたよ」
 葵が用意してくれたのは雑炊だった。各自のお椀に取り分けてくれる。
「ハフ、ハフフ……熱ッ
「熱いですから気を付けてください」
「ふー、ふー」
 翠寿と紅寿は真剣な顔をして息を吹きかけて冷ましている。

「ん、おいし。いっぱい食べたくなっちゃう」


「食欲があるのはいいことです。おかわりもありますから遠慮なくどうぞ」
「ウムム、旨い! おかわりだ!」
「はい。主様もいかがですか」
「じゃあ、お願い」

 朝食を終えて食後のお茶を飲む。

 まったりとした時間が流れていた。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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