第26話3

文字数 761文字

「戦い方は黒霧の武者の時と同じだ。葵と紅寿と翠寿が前衛。澪は後ろから弓で援護して。僕が澪を護るよ」

「紅寿、矢箱をここに。清正君は無理しないでね」

「わかってる」

 澪を背後に庇いつつ、ゆっくりと下がる。

 僕らの動きに合わせて、葵たちが前に出てくれた。


 間合いにおいて弓は槍に勝る。この中で唯一優位をとれるのが弓の澪だ。

 だから逢初は澪を狙ってくるだろう。


 しかも〈縮地〉を持つ逢初は多少の距離なら瞬きより早くゼロにすることが可能だ。

 武具の相性を無効化できるなんてある意味ではチートとも言える。


 だけど向こうから懐に入ってきてくれるのならば、小太刀とはいえ刀を持つ僕にも槍に対して勝機があるはずだ。

「そちらの準備もよいようですね。では、死合いを始めましょうか」

 上段に槍を構える逢初は葵たちへ無造作に近づいていく。

 間合いで不利となる葵を庇うように紅寿と翠寿が前に出て槍を構えた。

「二人とも槍を使い慣れているとは見えませんね」
 最後の一歩を踏み込む瞬間、逢初は右手一本で槍を振り回す。
「――!?」
「んきゃ!?」
 横薙ぎの一撃を受けきれずに二人とも吹き飛ばされる。
「──ふっ」

 大振りの隙をついて葵が前へ出る。

 三桜村での戦いでは距離を詰めることで相手の動きを封じ込めていた。


 中段から龍霞を突き込む。

「むっ!?」

 その切っ先を槍の穂先で受け止めていた。

 右手で振り回していたはずの槍が、いつの間にか左手に握られている。

「神代式の機巧姫といえどもこの程度ですか」
「くっ」
 相手は不自然な体勢に加え左手一本にも拘わらず葵が押し切れない。
「嘘だろ……こんなに強くなるのか」

 背後で弦が鳴る。

 澪の放った矢が逢初の額に向け一直線に迫る。


 逢初は右足を引いて体を開く。

 けれど左腕の槍は微塵も動かない。それでは葵も仕掛けようがなかった。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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