第27話1 雷を操る者

文字数 1,031文字

「――ッ」

 逢初の姿が眩い光の中に消える。


 どれぐらい時間が経ったのだろうか。

「何も見えない……」
 ゆっくりと視力が回復していき、白んだ視界に葵たちの後ろ姿を確認できた。
「みんな大丈夫だった?」
「はい。問題ありません。二人とも、もう大丈夫ですよ」

 両隣にいた紅寿と翠寿が葵の体に抱き着いている。

 相当怖かったと見え、お尻の尻尾は力なく垂れて足の間に挟まっていた。

「私も大丈夫。いったいなにがあったの?」
 逢初がいた場所は濡れた地面が黒く変色し、プスプスと煙が上がっている。
「どうやら逢初の槍めがけて雷が落ちたみたいだね」
「だけど姿がどこにもないよ。まさか雷が命中して蒸発しちゃったとか?」
「いいえ。あちらに」

 葵が刃を向けた先に逢初の姿があった。

 あの一瞬で通りの向こう側まで移動したのか。


「今のはさすがに驚きました」
「落雷まで回避できるのか……」
「まったく、無粋なことをしますね」
「カカカッ。このような時に余興とはな。面白そうだから儂もまぜよ!」
「まさか……十水さん?」
「ウム。その通り。いかにも儂だ」
「どうしてここに? っていうか、今の雷って十水さんが落としたんですか?」
「どうしてと問われれば、あの庵を引き上げようと思ったからだ。そして雷は儂が落とした。あれが水蛟の〈雷光〉だ。神ごとき力を持っていた祖先に比べれば子供だまし程度だがな」

 子供だましなんてとんでもない。

 でもその〈雷光〉ですら〈縮地〉持ちである九十九に通じないとは。

 攻撃が当たらない相手をどうやって倒せばいいんだ。

「そこの九十九は主持ちではないな?」
「だったらどうなのですか」
「小僧もまた厄介な奴に目をつけられたものよな。あれは認めるまで付きまとう気だぞ」
「……え?」
「まァ、よい。小僧が彼奴の力を見てやればよかろう」
 言いながら十水さんが右手を上げる。
「さて。儂が手を貸してやるから思う存分、貴様の力を見せてみよ!」

 再び空にゴロゴロという重苦しい音が轟く。

 それを聞いた紅寿と翠寿は竦みあがって葵にしがみついた。

「ゆくぞォ!」

 十水さんの手が振り下ろされると同時に一筋の雷が逢初に落ちた。

 天と地を繋ぐ光の線を逢初は躱す。

「まだまだぁ!」

 連続して降り注ぐ雷。

 瞬時に場所を移して逢初は避け続ける。


 建物の壁を蹴り、地面を走り、木の上に立つ。

 〈縮地〉と〈軽身〉を駆使して空間を自在に渡る。


 雷が落ちる度に視界は白くなり、やがて何も見えなくなる。

 明滅と雷鳴。

 それがしばらく続いた。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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