第19話3

文字数 890文字

 庵に戻った僕たちは最初にお邪魔した時のように囲炉裏を囲んで座っている。

「まったく。小娘は加減というものを知らんのか。それに小僧も小僧だぞ。か弱い儂が助けを求めているにも関わらず見ておるだけとはどういう了見だ!? いっそのこと全員に雷を見舞おうかと本気で思っておったのだからなッ」


 歯を見せて怒っているものの、如何せん童女のような外見をしている十水さんでは迫力に欠ける。
「フン。よいものを見せて貰ったので褒美でもやろうかと思ったがやめておくか」
「すみません。激しい戦闘の後で思うように体が動かなかったもので」
「お茶はいかがですか」
「ウム、貰う」
「主様もどうぞ」

「ありがとう」


「澪様はいかがいたしますか」
「…………」

 澪は心ここにあらずというか、さっきから手に乗せた水縹の勾玉をじっと見つめている。


「そういえば勾玉の色が変わっているように思うのですが」
「凝りがとれたお陰よ。あとは水縹の勾玉と小娘が共鳴しているのも関係しておるだろうが」
「既に澪は水縹の君の連れ合いになっているってことですか?」
「普通は人形の姿で出会い共鳴するかどうかを見極めるが、こういうこともある。勾玉は機巧姫の本質だからな」
「よかったね、澪」
「……」
「しばらくは放っておいた方がいいかもね」

「イヤ、そういうわけにはいかんな」

 十水さんは意地悪そうな顔をすると澪の手から勾玉を取り上げてしまう。


「あっ!?」

「オット、今度はさっきのようにはいかんぞ」


「返せ!」
「本当に返してよいのか? これから褒美をやろうと思っていたのだが」

「褒美なんていらない! 私には水縹がいてくれたらそれでいいもんっ」


 それを聞いて紅寿と翠寿が俯いてしまった。

 そして自分の尻尾をいじり始める。

「澪、言い過ぎ」

「だって――」


 尚も言い募ろうとするけど目顔でそれを止める。

 それで周囲の様子を見ることができたのか毛繕いをする二人を認めて顔を青ざめさせた。

「ごごごごごめん! ごめんなさいっ! 紅寿と翠寿のことも大事だからね! ね!」


「ヤレヤレ。こんな未熟者が連れ合いでは水縹も不憫なことよ。他に相応しい奴を探してやった方が幸せかもしれんなァ」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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