第3話4

文字数 1,050文字

「本当は清正様と立ち合いたかったのですよ。だというのに清正様はのらりくらりとはぐらかして。嫌われているのではないかと心配していたのですけれど、それは杞憂だったのですね。こうしてほの香を労わってくださいますし。それから次にどこかへお出かけになる際には必ずほの香もお連れくださいましね。置いて行かれたこと、今でもお恨みしているのですから」



「そう言われましても久納砦はいつ敵が攻め寄せてくるかわからない危険な場所です。そんな所へほの香姫を連れていけるはずがありません。そこをご理解いただけませんか」


 今の関谷にはほの香姫以外に機巧操士が六人いる。


 普段は志野城(しのじょう)に詰めている北野(きたの)歓酔(かんすい)さん。守備隊長として久納砦を守る矢作(やはぎ)嬉長(きちょう)さん。

 操心館で撃剣師範(げきけんしはん)を務める広幡(ひろはた)宗玄(そうげん)さんと梅園さん、妙見(みょうけん)さん。それから僕だ。


 六人の機巧操士は入れ替え制で砦を守っており、十日ほど前に僕も向かった。

 ほの香姫はその時に自分を連れて行かなかったことにふくれているのだ。

「そうはおっしゃいますけれど、清正様は人形の修理に必要なものを集めに行くのにも同行させてくださいませんでした。どうしてほの香をのけ者にするのですか。わたくしは清正様のお力になりたいだけなのに」


「危険があるかもしれないと茅葺さんに言われていたので……すみません」

 ゲームでそうだったように、この世界には人に害をなす巨大な動物や魔物が存在する。

 ゲームでは倒すことで経験値やお金、アイテムをドロップした、いわゆる雑魚モンスターだ。


 他に中ボスや大ボス的な魔物の設定もあったわけで、そういうのと戦う可能性を考えると、ほの香姫は連れて行かないという選択を取るしかなかったのだ。

「危険危険とおっしゃいますが、今の関谷で確実に安全だと言える場所などそうはないのではありませんか」
「それはそうですけど……」

「ですが、ほの香は一番安全な場所を知っています。それは清正様のおそばです」


「な、え……その……」
「はっはっは。これは姫の一本でしょうなぁ。とはいえ不吹殿も姫の無事を第一に考えているのは間違いありますまい。あまり無理を言うと、本当に嫌われてしまうかもしれませんぞ」
「そのようなことはありません。……ありませんよね?」
「き、嫌いにはなりませんよ」
「ほらご覧なさい。なによりも清正様は父上がお決めになったお相手なのですよ。ほの香がおそばにいるのは当然のことなのです」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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