第28話2

文字数 595文字

「う、うぇぇぇ……」
 桟橋から体を乗り出している澪の背中をさすってあげる。
「あ、ありがと。うぅ……やっぱり地面が揺れないのって幸せだよね……」

 船着き場に立った――四つん這いの澪が呟く。


 船坂が落ち着いたのを確認してから、僕たちは舟で城下町まで戻っていた。

 同行したのは不動と結、それから十水さんだ。

「まったく情けないことよ」
「……水蛟なら川の流れを制御できたりは……」
「できるが」
「なんでして――えれえれえれえれ」

 さっきから水音がしているけど、きっといい魚の餌になるだろう。


 積み荷は僕たちだけではなく、十水さんの蔵にあった名物級の武具もいくつか運んでいる。

 結構な量なので、どこかで荷車を手配した方がいいかもしれない。

「大丈夫? 落ち着いたら出発しようと思うんだけど」
「ん、もうちょっとしたら大丈夫……だと、思う……」
「じゃあ、翠寿。武具を積み込める荷車をどこかから借りてきて貰えないかな」
「わかりました! 結ちゃんもいっしょにいこまい」
「あの、かまいませんでしょうか」
「いいぜ。いってこい」
「はい」
「澪は翠寿たちが戻ってくるまでは休憩しててよ。不動、武具を舟から運ぶから手伝って」
「おうさ」

 操心館へ戻った僕たちはまず館長である広幡さんの部屋へ向かった。

 労いの言葉をいただいてから、互いの状況を伝え合う。


 それからまだ足元の覚束ない澪と一緒に茅葺さんの部屋にお邪魔することにした。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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