第11話1 忘れ物

文字数 709文字

「おはようございます」

「ん、おはよう。みんなはまだ寝てるのかな」

「はい。翠寿には主様のお世話もあるというのに困ったことですね」
「そう言わないであげてよ。このところ頑張りすぎていたのは知ってるし、今日ぐらいは好きなだけ寝させてあげてもいいんじゃないかな」
「主様がそうおっしゃるのでしたら」

 一晩干してすっかり乾いた制服に着替える。


「失礼いたします」

 障子が開くのとほぼ同時だった。
「――っ」
「清正さま!」

 紅寿と翠寿が布団から飛び起き低い姿勢をとる。

 僅かな音も聞き漏らすまいと耳は前方に傾き、八鶴さんを睨みつけている。

「あ、あの……?」


「二人とも構えを解いて。八鶴さんだよ。昨夜のことは覚えてない?」
「……ぅ」

「あたまいたぃ……」

 二人は顔を顰めて布団の上に力なく伏せる。

 見事に二日酔いのようだ。

「不吹様に言われた通りシジミの味噌汁をお持ちいたしました」

「わざわざありがとうございます。それを飲んだら少しは楽になるよ」

「……!」
「これ、うまいだらぁ」
「ん……いい匂い……お腹すいた……」
「澪も起きたのなら味噌汁を飲むといいよ」
「ありがと。……ずず。あー、これおいしー。はー、生気がみなぎってくるみたい……」
「動けるようになったら朝ご飯を食べに行こうか」
「よろしければおむすびもご用意してありますので召し上がってください」
「わー、おいしそう。いただきまーす。紅寿たちもいただきなさい」

「いっぱい食べてくださいね。足りなければおかわりもご用意しますから声をかけてください。それでは失礼いたします」

 僕も一ついただくことにする。

 塩がきつめで食欲をほどよく刺激してくれる。

「うん、美味しい」

 しばし無言で朝食をいただいた。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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