第23話4

文字数 751文字

「顔を上げて話をしてください。彼らは何かを残していきませんでしたか」
「は、はい。こちらを……」

 懐から取り出したのはこの町の地図だった。

 いくつかの場所に赤と黒でバツ印が追加されている。

 赤いバツ印は北に二つ、南東に一つ、南に一つ、そこから少し北に二つ。

 黒は二つあり、一つは北に、もう一つは南東についている。


「赤い印が殺害場所ですね」
「さようでございます」
「この辺りの空き家に何者かが住み着いたかもしれないという話でしたが」
「はい。調べたところ、たしかに人のいた形跡がありました」
「じゃあ、片寄さんたちはそこに行ったんだよ。すぐに追いかけようよ、清正君」
「実はそちらの建物はこれ以上使われないように先日打ち壊してしまいました。ですから片寄様は北の建物へ向かうと伝えてほしいと……も、申し訳ありませぬ」

 思わず睨んでしまった自分に反省する。


「口止めをされていたんですね」
「は、はい。不吹様から問われたらすべて素直に答えるようにと」

 地図と橋目さんを残していったのは彼らなりの誠意だったのかもしれない。

 一刻も早く連れ戻さなければ。

「よし。二人を追いかけよう」
「私の準備はできてるよ」
 鎧姿の澪は弦を張った繊月を左手に持ち、腰には矢籠を付けている。

「紅寿。矢箱は任せたからね」

 蓋が付いた矢箱を背負い、円錐状の編み笠を被った紅寿が頷く。
「あたしもいけるだらぁ!」

 蓑を身に着けた翠寿がぴょんと手を上げる。

 二人は武器庫にあった短めの槍を手にしていた。

「葵は?」
「問題ありません」

 翠寿と同じく編み笠を被り、蓑を着た葵は腰に龍霞を差している。


「橋目さんはここに残ってください」
「わ、わかりました」
「みんな無事で帰ってこいよ! そんでまた美味い酒を飲もうぜ!」
 奥山田さんに頷いて、僕たちは玄関へと向かった。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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