第28話1 後日談

文字数 1,071文字

「だいたいの話は不動も聞いているんだよね」
「ああ。船坂を荒らしまわっている奴らがいて、代官だった三島様まで殺されたんだろ」
「わたくしたちが出発してから何が起きたのですか」
「まずは武器庫を開いて、いつ援軍が来てもいいように戦いの準備をしました。それから――」

 片寄さんたちが仇討ちのために独断で行動したこと、その結果返り討ちにあったこと。

 そして相手の正体とその結末を語って聞かせる。

「……あの九十九が相手だったのか。兄貴、よく無事だったな」

 三桜村での戦いを見ている不動は相手の強さを知っている。

 普段、強敵とは手合わせを望みたがる鬼の不動をしてそれを憚るほどの存在なのだ。

「野良の九十九を相手にするとは。やはり不吹殿もお好きなのではないですか」
「不可抗力です。僕が戦いを望んだわけではありませんからね。水蛟の十水さんの助けがなかったらどうなっていたことか。それに澪や葵も力を貸してくれましたからね。僕一人だけではとてもとても」
「それではわたくしたちの行動は無駄だったのですね」
「そんなことはありません。この町を治める人が必要になります。緊急対応として僕と澪が代理をしていましたが、そちらの後任はどうなっているのでしょうか」
「それには心配及びません。宮地(みやじ)が次の代官となりましたので――」
「失礼いたします。宮地です。遅くなりました」
「ちょうどよいところに。入りなさい」
「確か藤川様の小姓の――」
宮地(みやじ)徳次郎(とくじろう)と申します」

 明るい色をした髪の紅顔の美少年が僕に向けて頭を下げる。

 間違いない。

 藤川様にハリセンでツッコミを入れ、僕の前に武具を置いてくれた人だ。


 小姓は武将の身近に仕えて雑事をこなす。

 戦いともなれば主君の盾として体を張り、将来的には側近としての活躍が見込まれる有能な若者がつくことが多い。


 宮地さんは刀剣の九十九だから戦闘能力について疑いの余地はない。

 そして藤川様の小姓をしていたのだから政務にも明るいと思われる。つまりは最適な人選だ。

「これからは三島に替わり、この宮地が船坂を治めることになります。宮地につけた者たちも強者ばかり。まずは治安の回復に努めてもらいましょう」
「承知いたしました」
「それから父上から伝言があります。清正様とわたくしはしばらく船坂に滞在し、宮地に助力するようにとのことです」
「わかりました。まだ隠れ潜む間者がいるかもしれませんからね。できる限りのことをしますので、遠慮なく申し付けてください」
「機巧操士の不吹様にそう言っていただけるのは心強い。ご助力、感謝いたします」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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