第5話1 土産の品
文字数 974文字
氏素性の知れぬ僕に対して破格の扱いだとは思うけど、この世界において機巧操士とはそこまでの存在なのだ。
そして地位や立場には責任が伴う。
それを裏切らないようにしなければならなかった。
手を振る翠寿の視線の先に二つの影があった。
一人は不動の付き人の
不動と同じ鬼の一族なので彼女のこめかみからも二本の角が伸びている。
おさげ髪でいつも優しく微笑む柔らかな雰囲気を持つ女の子だ。
翠寿とは年が近いので仲がよく、一緒に仕事をしたり、城下町へ遊びに行ったりするそうだ。
もう一人は
澪と葵は微笑んで軽く頭を下げる。
紀美野さんの隣に立つ結が長い柄に把手がついた柄樽を持っている。
柄樽はお酒を運ぶための入れ物だ。
結が持っているのは白木のものだけど、現代でもお祝い事に朱塗りの角樽が使われたりする。
紀美野さんは料理の腕前だけではなく、美味しいお酒を見極めるのにも長けている。
その彼女が断言するのだ。間違いなく美味い。
味を想像して思わず喉がぐびりと鳴ってしまう。