第18話4
文字数 1,034文字
結果的に黒霧の武者を中心に葵たちが三方向から囲む形になった。
僕と澪は黒い霧を囲む葵たちから少し離れた場所に位置している。
まずは攻撃の狙いを絞り込んで核を破壊できないか試してみる。
弦が鳴り、矢が撃ち込まれる。
眉間、喉元、手足の付け根――どれも黒霧を通過しただけだ。
足元にいる葵たちを蹴散らそうと黒霧の武者は弓を振り回す。
しかし動作は大きく動きも速くない。あの三人なら余裕を持って回避できる。
黒霧の武者が左手に持つ弓には、澪が借りた弓と同じような弭槍が付いている。
正面に位置した葵を狙い、弭槍が突き出される。
鋼が打ち合わされるような音。
葵たちは付かず離れずの位置を保ちながら次々に攻撃を繰り出していた。
鋭い突き。柄による薙ぎ払い。刀の斬撃。
澪が放つ弓は鎧があれば弾かれるであろう心臓や正中線に沿った腹部を狙う。
本人が言うだけあって澪の弓の腕前はたいしたものだった。
けれどいずれの攻撃もダメージを与えたようには見えない。
斬撃で分離した部分も時間が過ぎれば元通りになってしまう。
人差し指を眉間に当てて考える。
どうすればいい。この戦闘はどうやったら勝てる。勝利条件を考えろ。
黒い武者が的を絞れないように葵たちは激しく位置を変えている。
勢い余った翠寿の体が足の部分をすり抜ける。
だけど黒霧が攻撃に移った場合はどうだ?
最初の拳だ。光景を思い出す。
地面にめり込むような勢いで振り下ろされた。
その腕を葵が斬った。霧は刃で両断された。
でもダメージは受けたようには見えず元の形に戻った。
拳は地面に当たったのか?
当たっていた。
だけど地面に変化はなかった。音も衝撃もなかった。
黒霧の武者は僅かに腰を沈めると後方へ向けて跳躍する。
ひと飛びで二十メートルは向こうに着地する。風の障壁ギリギリの位置だ。
着地と同時に矢をつがえる。
狙う先は――僕だ。