第18話4

文字数 1,034文字

 結果的に黒霧の武者を中心に葵たちが三方向から囲む形になった。

 僕と澪は黒い霧を囲む葵たちから少し離れた場所に位置している。


「人間相手なら致命傷になる場所を狙って攻撃するんだ! 高い場所は澪の弓で頼む!」
「わかった!」

 まずは攻撃の狙いを絞り込んで核を破壊できないか試してみる。


 弦が鳴り、矢が撃ち込まれる。

 眉間、喉元、手足の付け根――どれも黒霧を通過しただけだ。


 足元にいる葵たちを蹴散らそうと黒霧の武者は弓を振り回す。

 しかし動作は大きく動きも速くない。あの三人なら余裕を持って回避できる。

「弓の先についてる槍にも注意するんだ!」

 黒霧の武者が左手に持つ弓には、澪が借りた弓と同じような弭槍が付いている。


 正面に位置した葵を狙い、弭槍が突き出される。

 鋼が打ち合わされるような音。

「葵!」

「この槍は他と違い実体があります。お気を付けを!」


 葵たちは付かず離れずの位置を保ちながら次々に攻撃を繰り出していた。

 鋭い突き。柄による薙ぎ払い。刀の斬撃。


 澪が放つ弓は鎧があれば弾かれるであろう心臓や正中線に沿った腹部を狙う。

 本人が言うだけあって澪の弓の腕前はたいしたものだった。


 けれどいずれの攻撃もダメージを与えたようには見えない。

 斬撃で分離した部分も時間が過ぎれば元通りになってしまう。

「どうしよう、清正君。いくら矢を放っても手応えがないの。頭も体も足も。どこに撃っても同じなんだけどっ」


 人差し指を眉間に当てて考える。

 どうすればいい。この戦闘はどうやったら勝てる。勝利条件を考えろ。


「みんな、少し時間を稼いでくれ!」

 黒い武者が的を絞れないように葵たちは激しく位置を変えている。


「わぷっ」


 勢い余った翠寿の体が足の部分をすり抜ける。


「やっぱり黒い霧の体に当たり判定はないんだな」


 だけど黒霧が攻撃に移った場合はどうだ?

 最初の拳だ。光景を思い出す。


 地面にめり込むような勢いで振り下ろされた。

 その腕を葵が斬った。霧は刃で両断された。

 でもダメージは受けたようには見えず元の形に戻った。


 拳は地面に当たったのか?


 当たっていた。

 だけど地面に変化はなかった。音も衝撃もなかった。


「みんな気を付けて! 動きが変わったよ!」

 黒霧の武者は僅かに腰を沈めると後方へ向けて跳躍する。


「主様、距離を取られました。矢を放つつもりです。お気を付けをっ」


 ひと飛びで二十メートルは向こうに着地する。風の障壁ギリギリの位置だ。


 着地と同時に矢をつがえる。

 狙う先は――僕だ。


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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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