第23話3

文字数 797文字

「どういうことですか」
「も、申し訳ございませんっ」
 いきなり土下座をされる。
「片寄さんたちが仇討ちのために出ていったんですね?」
「は、はい……」

 やっぱりそうだったのか。思わずため息が出てしまう。

 もう少し理を解くべきだったのか。あるいは情に訴えるべきだったのか。


 ぐるぐると思考が渦巻く。

 もっとうまく対処していれば彼らを思いとどまらせることができたのではないか。


 置かれた状況、相手の心情、避けるべきリスク。

 求める品質、使えるリソース、限られた予算とスケジュール。

 ゲーム制作で嫌というほど痛感してきたじゃないか。

 コミュニケーションを正しく取っていれば問題を回避できていたはずだと何度後悔したのか。

「仕方がないよ、清正君。私も気持ちわかるもん。あの人たちにとって三島様の仇を討つことは命よりも大切な、誉れあることなんだよ」
「そんなの……僕にはよくわからないよ……」

 この世界は僕が作ったゲームをベースにしているかもしれないけど、わからないことばっかりだ。


 澪や翠寿たちのような八岐に向けられる差別の視線や言葉や感情も、自分の命よりも大切にしなければならない名誉や誉れという考えも。ちっともわからない。


 どうしても自分たちだけで仇を討ちたいという片寄さんたちと話をした時、僕は彼らの気持ちがわかると言った。

 大切な人を失った悲しい気持ちはわかるつもりだった。

 大きな失敗をして喪失感を埋め合わせたいという気持ちもわかるつもりだった。


 でも僕はわかったつもりでしかなかったんだ。

「誰かの無念を晴らすのって、自分の命よりも優先することなの?」
「うん。場合にもよるけどね」
「……」
「あたしもです!」

 紅寿も翠寿も同意する。

 考える余地のない、当たり前のこととして認識をしている。

「そっか……」

 この世界ではそうなのかもしれない。ここで異端なのは僕なのだ。

 土下座をしたまま橋目さんは震えている。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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