第21話2

文字数 1,171文字

「ところで殺された状況をもう少し詳しくお聞かせ願えますか」

「柿田が殺されたこともあり、昨夜からは二人一組で見回りに出していました。ですが山綱と小丸が朝になっても戻らず……二人とも抵抗した様子もなく、腹を槍で一突きされていました。先にやられたのは小丸だと思われます。あの山綱が刀を抜いてすらいなかったのが解せませんが……」


 三島様の家来は小者に至るまで戦闘能力のある者を揃えていた。

 武士であった山綱さんは中でも一番の剣の使い手だったという話だ。

 そんな人が戦うことなく殺されたのだから相手はかなりの手練れかあるいは――

「暗い場所に潜んでいて、不意を突いて襲い掛かったんでしょうかね」
「それだと二人とも刀を抜いてなかったのはおかしくないかな。一人が攻撃を受けている間にもう一人は抜刀してるでしょ」
「例えば相手が顔見知りだったとか。だから躊躇して刀を抜けなかったとは考えられない?」
「顔見知りですか。なるほど。そこには考えが至りませんでした。しかしその場合は身内を疑わなければなりませんが……」

「あくまで可能性の話です。それに顔を知っているのは身内に限りません。町での知り合いだったとも考えられますからね。何より夜の見回りですからいくら明かりを持っていたとしても人相の判別は付きにくいでしょう。背格好が似ている人が名前を騙ったりしたら瞬時に判断するのは難しいと思います」


「でもさ、清正君。相手は槍を持ち歩いているわけだよね。それならいくら暗くても一目見れば怪しいってわかるんじゃないかな」
「槍といっても大きさはさまざまですからな。手突槍(てつきやり)のような短いものであれば持ち運びも容易です。それならいきなりブスリとやれるでしょう」
「なんだか、まるで槍の九十九みたいですね」
「――っ」
「筒針は常にわたくしと行動を共にしていますよ」
「……申し訳ございません」
「そもそも槍の九十九ってたくさんいるものなんですか」
「どうでしょうなぁ。そこまでの手練れとなると、名槍がそれなりの年を経て、さらに相応しい遣い手に出会わなければなりませんから頻繁に見かけるほどいるとは思えませんが」
「それに九十九ってあまり外に出ないものなんだよ」
「そうなの? 結構好き勝手に動いているのかと思ってた」
「今の俺のような事情がなければ、あとは主に付いて戦に出るぐらいですかね。所有する主家のために力を尽くすのが我々の本分ですから、勝手にフラフラ出歩くようなことはまずありませんな」

「相手が九十九かどうかはともかく手突槍でしたか。そのような短い槍を持ち歩いている可能性は考慮しておくべきでしょう。早速、情報を共有しておきます。貴重なご意見をいただきました。入れ替わりで私も見回りに出ます。不吹殿たちはお休みください。それでは失礼いたします」


 障子が閉まると沈黙が部屋を支配した。


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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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