第1話2

文字数 1,059文字

 審判を務める(みお)を挟んで反対側で盛り上がっているのは操心館(そうしんかん)に所属する六地蔵(ろくじぞう)常念(じょうねん)さんと亀井(かめい)七重郎(しちじゅうろう)さんだ。


 六地蔵さんはこの関谷国(せきやのくに)に古くから続く寺の息子で、その寺に機巧姫が奉納されていることから機巧操士の候補生になった。


 顰め面で唸っている亀井さんは関谷を治める藤川(ふじかわ)家に代々仕える上級武士の末弟だ。

 家督を継いでいたお兄さんが戦で命を落としてしまい、その際に機巧姫も破壊されてしまったのだと聞いた。だから彼には連れ合いとなる機巧姫がいない。


 彼らは機巧操士になるべく操心館で色々なことを学んでいる。

 また侍として霧峰国(きりみねのくに)と接する東の久納砦(くのうとりで)に交代で詰めることもあった。


 そういう僕もつい先日、砦から戻ったばかりだ。


 現在、操心館にいるのは僕と淡渕(あわぶち)(みお)

 用事でこの場にはいない大平(おおひら)不動(ふどう)

 六地蔵さんや亀井さんと一緒に観戦している菅生(すごう)五十鈴(いすず)さん。

 それから模擬戦中の梅園(うめぞの)景虎(かげとら)さんと藤川国王の娘、ほの()姫の八人だ。

筒針(つつばり)さんはどう見ます」

 僕の隣で腕組みをしながら立つ筒針(つつばり)(つぐ)さんはほの香姫と一緒に操心館へやってきた彼女の護衛兼お目付け役だ。

 機巧操士ではないけど、ただの侍ではない。彼は槍に憑く九十九(つくも)だ。


 九十九とは人でありながら人ならぬ八岐(やまた)の一種族で、人の姿はあくまで借り物。本体は人身に憑く器物である。


 刀や槍や弓、鏡、楽器などの器物が年を経て人に憑くことで自らの意志を成す存在。

 筒針さんは人槍(じんそう)兼八(かねはち)という槍の九十九だった。


 僕が制作したゲームと同じ設定を持つこの世界では特に優れた武具に天地人の称が与えられる。

 人槍の称号を持つ兼八は名槍だ。そして槍と薙刀には長柄武器として相通ずる部分がある。

「姫様はあえて遠間から仕掛けず相手の得意とする近間でやりたがっているようです。本来、薙刀における八相の構えは流れの中で速やかに攻撃に移るためのもの。それなのにああして維持しているのですから意図は明らかでしょう」
「短期決戦ですか」
「おそらく不吹(ふぶき)殿にいいところを見せたいのでしょうな。可愛いではありませんか」
「そう来ますか。あれはあくまで藤川様のお戯れですからね」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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