第17話2

文字数 969文字

 案内された蔵には武具が無造作に放り込まれていた。
「これはまた随分とため込んだものですね」

 刀、槍、長巻、薙刀、弓、金棒などなど。

 ちょっとした武器庫だった。

 棚には様々な大きさの箱が積み上げられている。

「箱書きがあるね……竹香蔵(たけかぐら)古陶里(ことり)刈干(かりぼし)……」
「仕事の礼として置いていかれたものだ。儂は武具に興味はないのでいらんと言っておるのだが皆が押し付けていく。お陰でこの蔵はガラクタで埋まってしまったわ」
「ちょ、ちょっと待って……この箱書きってもしかして……本当に天下十二剣の一つ、天刀(てんとう)龍霞(りゅうがすみ)……なの?」
「そんな名前のものもあったかもしれん」
「嘘でしょ……信じられない!」

 天の称が付く刀であれば名刀中の名刀に間違いない。

 本物なら藤川様からもらった天弓(てんきゅう)山翡翠(やませみ)に匹敵する能力を持っているはずだ。


 澪が鞘から抜くと美しい刀身が姿を見せる。

「この腰反りにふくらが枯れた感じ……聞いてた通りだよ。やっぱり本物の龍霞なんだ。うわーうわー。刀身が水に濡れているみたい。水を呼ぶって龍霞の話、本当だったんだ……」


 蔵の奥に入っていった澪の震える声が聞こえてくる。
「こっちは人弓(じんきゅう)久耀(くよう)、これは地弓(ちきゅう)繊月(せんげつ)……」
「澪って武具にも詳しかったんだね」

「刀や槍は全然だけど弓ならわかるよ。だって私も弓は使うもの」

 刀に詳しくない澪ですら知っている龍霞はかなりの名刀ということか。

 何しろ天下十二剣の一振りということだし。


 ちなみにゲームにはそんな設定は存在しない。

 こういう違いを知れるのも面白いところだ。


「その中から好きな物を選ぶがいい。準備が整い次第、勾玉から凝りの主を呼び出すぞ」
「主様はいかがしますか」
「うーん、この中から選べって言われてもなあ」

 銘のある武具であればどれも優れているのは間違いない。

 とはいえどんな効果があるか知らない武具を有効活用できる気がしなかった。

「僕は藤川様から貰ったこの獅童でいいよ」

 腰に差してある小太刀だって人刀。銘ありの逸品だ。


 下手にカッコをつけて大太刀や大身槍(おおみやり)なんかを持ち出しても扱いきれないのは目に見えている。

 それなら今の自分の体格に合った武具を選ぶべきだろう。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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