第13話2

文字数 1,284文字

「無理しない方がいいですよ。結構、出血していましたから」
「そうなの? うわ、なんだこれ!? 頭が血だらけじゃない。俺、こんなんだったの? よく生きてたなあ。そうだ。ちゃんとお礼を言わないと。淡渕さん、あんたのおかげだ。ありがとう。ありがとう!」
「いいえ、そんなの気にしないでください。ご無事でなによりです」
「人の命を救ったっていうのに謙虚な人だなあ。やっぱり神々の声を聞き届ける巫女様なだけはある。むしろ女神様だな。天女様でもいいけど。ところでどうやって治したの? 手のひらに何か秘密があったりするの?」
「そちらの考察についてはまた後日に。とにかく何があったのか教えてください」
「おっと、そうだな。とはいえよく覚えてないんだよ。包みが落ちてたのを見つけて、あんたたちに届けてやろうと店を出たんだよ。どこの宿に泊まっているか聞いてなかったから、とりあえず近い宿から行ってみようと思って浜田屋へ向かったんだ。ところが後ろから頭をこうガツンとやられてね。あまりの衝撃に頭を抱えてしゃがみ込んだら今度は蹴っ飛ばされてさ。地面をゴロゴロ転がっちゃったよ。転がりながら、こりゃもしかしたら昨今巷を騒がせている悪党どもかなとぼんやり考えていたんだ。ほら、不吹君は美人の人形を連れてただろ。それを盗むか壊そうとしていた輩に運悪く遭遇しちまったんだろうなって」
「相手の姿は見ませんでしたか」
「なにしろ暗かったし、後ろからだったからねえ。倒れた拍子に懐に入れておいたのを落としちゃったみたいでさ。それを持って悪党はどこかへ行ったんじゃないかな。というのも、そのあたりで意識を失っちゃったんだよ。気が付いたら夜が明けてたってたわけ」
「襲われたのは浜田屋の前で間違いないですか」
「そうだよ。でも気が付いたのは建物の隙間だった。自分でそこまで移動したのか、誰かに運ばれたのかわかんないけどな」

「その者を襲ったのは霧峰の間者である可能性が高い。至急、足取りを追わせます」


 話を聞いていた三島さんが家来の一人に指示を出す。
「下手人を捕まえるのは我々にお任せください。それよりも不吹殿に一つお願いしたいことがあるのです」
「なんでしょう」
「今すぐ竜泉寺殿のところへ向かっていただき、勾玉を盗んだ者が来なかったかを確かめていただきたいのです。無論、案内役はつけます」
「あの雷が水蛟のものであれば竜泉寺様はご無事な気もしますが」
「よほどのことがなければ大丈夫だとは思いますが、あの方に何かあれば水江島との交易が取りやめということにもなりかねません。この町を預かる者としてそれだけは避けなければ」
「わかりました。お引き受けいたします」
(たき)殿を呼んでまいれ」
「ははっ」
「み、水蛟様のところへ行くのなら僕も連れて行ってもらわないと……おっと」
「たくさん血を流していたんですから、しばらくは安静にしていないと駄目ですよ」

「そんなこと言われたってさあ。こんな機会は二度とないかもしれないじゃない。俺も水蛟様に会わせてくんないかなあ」


「すみません。奥山田さんが休める場所を用意して貰えませんか」
「わかりました」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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