第19話1 褒美
文字数 897文字
腰から抜き放った小太刀を振り上げ、巨大な矢を迎え撃つ。
鋭い金属音。
構わず腕を振り切る。
弾いた矢は軌道を変え、風の壁を突き抜けていく。
拳を地面に打ち付けた時には衝撃も音もなかった。
足に突っ込んだ翠寿たちがすり抜けていた。
こちらの頭や体を狙った攻撃はダメージを与えていなかった。
そして何より。
『――見事』
翠寿の指摘した通りに黒霧の武者は人間サイズになっている。
全身は相変わらず黒い霧で形成されているものの、大きかった時とは異なり細部までしっかり形状を見ることができる。
兜は
胴は
胴から草摺を吊るす揺糸は短い。草摺は十一間五段下りと細く、足周りの動き易さを考慮した形だ。
袖は大鎧に使うような七段の大袖で肩回りの重要箇所を守っている。
鎧武者が滑るような足運びで近づいてくる。頭の上下動が全くない。
葵がどうしたらいいかと言いたげに視線を向けて来たので首を横に振った。
今の僕たちはただの観客だ。主役は他にいる。
澪の前に鎧武者が立つ。
小さくなったとはいえ体格がいいので澪が見上げる形になる。