第4話3
文字数 1,440文字
「利用というと言葉が悪いですけど、力を貸してもらうように澪を通じてお願いしています。例えば人狼は長距離を素早く移動できる上に遠吠えで仲間同士の意思疎通ができます。それを活かせば情報の伝達速度を上げることができると考えたんです」
つまりは伝令役だ。
これまでは狼煙と早馬を併用していた。
でも基本的に狼煙は雨が降っていると使えないし、有効距離もせいぜい十キロというところだ。それも見通しがよくて風がないなどの条件が揃っている場合に限る。
だから必ず早馬も走らせるんだけど、現代のようにすべての道が整備されているわけではないので、馬を乗り継いでも久納砦から志野城まで半日は必要だった。
そこで人狼の長距離移動能力と遠吠えを活用することを提案してみたのだ。
何かあれば伝令として走り、各拠点にいる人狼の仲間に遠吠えで知らせる。
これなら砦に敵が攻め寄せても数時間後には第一報をお城まで伝えることができるはずだ。
土蜘蛛は八岐の一種族だ。
人ならぬもの、人外の化生だ。
あらゆるところに糸を張り巡らし、情報を収集し、他人の心を縛り、操る力がある。
澪と共に城下町へやってきた
つまり関谷で暮らす八岐でも有力者の一人であり、優秀な人物だ。
土蜘蛛といえば古来の日本では朝廷に従わなかったまつろわぬ民として知られている。
こちらの世界では相手を魅了して自分に好意を持たせる能力が備わっているそうだ。
確かにすらりとした素晴らしい足には目を奪われ――ゴホンゴホン。
総乃さんは落ち着いた雰囲気の美人で言葉遣いも丁寧な人だ。
少なくとも僕は悪い印象を持っていない。
何より足のラインが美しいのが――ゲフンゲフン。
筒針さんは憐れむような、悲しむような、とても複雑な表情で僕を見た。
実際、初めて総乃さんと会った時には目を奪われた。
葵が背後に立ったことを忘れるほどには。