第3話1 模擬戦決着

文字数 566文字

「ええい!」
 大きく振り下ろされた薙刀を、体を捻ることで深藍は回避する。
「ふうふうふう……」
 呼吸を整えつつ基本である左中段に構える。
「ほの香様が戦場に出たらすぐにでも殺されてしまうなんて白糸様は言っていましたけど、あれなら十分に戦力ですよね」
「幼い頃から薙刀をやっておられますからな。最低限、自分の身を守ることはできるかと」
「正直、薙刀で立ち会ったらほの香姫に勝てる気がしないなぁ。当然だけど刀でもね。

あれはちゃんと学んだ人の動きだもん」

「澪が得意な武器ってなんなの」
「弓ならそれなりに使えるつもりだよ」

「とはいえ、ほの香姫の薙刀はあくまで道場で学んだもの。正々堂々、一対一の戦い方ですからな。綺麗過ぎるのですよ。戦場で求められるものとは全く異なります。相手は一人ではないかもしれない。正面から来るとは限らない。それを知っているのと知らないのとでは大きな違いとなります。実戦で生き残るのは梅園殿でしょうな」


「確かに二人の間には紙一重どころか何十枚もの差がありそうですね」
「その梅園様を清正君は圧倒したんだよね」
「あの時は深藍の君が負傷していたからだよ。それに葵のお陰もあったしね」
「いいえ。主様の実力だと思います」

 葵が褒めてくれるのは嬉しいけど、今はやめておいて欲しいかなあ。

 だって筒針さんが目を輝かせて僕を見ているんだもん。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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