第3話3

文字数 1,060文字

「清正様!」


「ほ、ほの香姫……驚かさないでください」


「驚くよりも先に、ほの香に一言あってもよいのではないですか」


「そうですね。おめでとうござい――」


「ありがとうございます!」


 食い気味だった。

 そして手を握られる。

 そればかりか導かれた先はほの香姫の胸元だ。

「清正様に見られていると思うと、ほの香は緊張して仕方がありませんでした。胸の鼓動は早鐘のようで呼吸も整いませんでした。まさに今のように……おわかりになりますか? こんなにもほの香は緊張をしていたのです。けれど清正様に無様なところを見せるわけにはいかないと心を切り替えたのです。相手は関谷でも手練れと名高い梅園。あの者に勝てなければ清正様のお背中をお守りできないと気力を絞ったのです」

 緊張していたって言うけど、のっけからノリノリだったと記憶しているんですけどね。


 始めの号令がかかるや否や打ちかかったのはほの香姫だったし。

 そのせいか、かなり好戦的な人物という印象ですよ?

「いかがでしょうか。ほの香は清正様のお背中をお守りできるでしょうか」
「そ、そうですねえ……あ、そうだ。それよりも疲れてはいませんか。僕は機巧武者で動き回った後は立っていられないぐらい疲れ切ってしまうんですけど」
「少し頭の奥が痛いのと体が重く感じますけれど、動けないというほどではありません。ですがご心配いただけたのは嬉しく思います。清正様はお優しい方なのですね」
 今度は僕の手を自分の頬にあててスリスリしていた。すべらかな感触に思わず喉が鳴る。
「清正様はほの香とは違い機巧武者の姿を解くと大変なのですね。おいたわしいことです。けれどご安心ください。たとえ清正様が動けなくてもわたくしが命にかけてお守りしますから」
「あ、あははは……機巧武者の姿を解いた後の疲労度はどういう基準になっているんでしょうね。梅園さんも問題なく動けているみたいですし」
「もしかしたら機巧姫が関係しているのかもしれませんね。清正様がお連れしている葵の君は神代式。人をも超えた存在です。そのようなモノを連れ合いにする機巧操士には相応の負担がかかっているのかもしれません」
「なるほど。それは一理ありそうです」

 つまりはゲームにおいて強力なキャラクターほど使うのに制限がかかるシステムとは考えられないだろうか。


 神代式の機巧姫は強い。機巧武者となれば戦いの素人である僕が戦っても相手を圧倒してしまうほどだ。

 それだけ強いのだから古式や新式に比べて再利用までに時間がかかるという制限があるのだと言われれば、なるほど納得できる。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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