第108話 彷徨

文字数 690文字

スカーレットを苦しめてきた確かな理不尽は、こうして、国民の問題へとすり替わった。
スカーレットは、目的を達成したのである。
上限を気にしないでいいカードとも、ヒュドールのあらゆる施設を使う権利ともお別れ。
ローデヴェイクのクローン達ともお別れである。
ブルーにバイオレット、ブラックにオレンジ、ゴールドにグレー。
法に触れる任務を一切厭わない彼らに、スカーレットは最後にプレゼントをした。
事後処理活動というのは表向きで、ミッションの見えないその期間は休暇。
妻帯者もいる彼らのためのスカーレットの気配りである。
ヘクトルがエミリー、アーサーがビクトリアを選んだのとは違い、彼らは、一人の人間として、普通に人と出会い、幸せな家庭まで築いている。
同じ遺伝子の人間が何人いようと、この星にとって、大した問題ではないのかもしれない。
何故なら、人間に大した違いなどないのだから。
身の回りで起きることも、奇跡でもなければ、そう。どこかで誰かが見たことばかりである。
特別ではない皆が、特別ではない毎日を永遠に繰り返している。
永遠の命を望むと言うことは、きっと、そういう事。
人という種は、永遠に向けて、ゆっくりと世代を積み重ねているのである。

ただ、皆とは明らかに違うローデヴェイクが一人。
研究所の彼は、事件の後、軍の病院に引き取られた。
決して、人の道を外れないA国は、あらゆる教育を施し、短い期間で、ローデヴェイクを皆の羨む紳士に育て上げた。素質が違うのである。
先生に怒られる事も、悪戯をする事も、女の子と遊ぶ事もないまま、大人になったローデヴェイクが、残りの人生をどう生きるのかは、彼を迎える社会次第である。
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