第48話 武装

文字数 1,206文字

A国N州K郡。
エマが手始めに購入したのは、トレーラーをコンバージョンしたキャンピング・カー。
彼女のカードが経営破綻した銀行のものでなかったのは、単なる偶然である。
車を選んだのは、安全と機動性を重視した結果。
人が多すぎる公共交通機関は、管理には向かない。
プライベート・ジェットは、飛行場から先の移動手段を考える必要がある。
敢えて言うなら、船は陸地を進めない。
宿泊施設も兼ねるキャンピング・カーは、当然の答えだったのである。
ハンドルは重いが、信じられない程の静けさは値段だけのもの。
気に入らずにはいられない買い物である。
但し、エマとパープルが向かう先は、決して気に入りそうな場所ではない。
武器倉庫である。
ビル街から郊外に抜けると、人影もまばらになり、誰もいない目的地は目と鼻の先。
スノー・ホワイトの建物が、大きく間を空けて二棟。
ヒュドールのものである。
助手席のパープルがリモコンでシャッターを開くと、エマは、薄暗い室内を確かめる様に車を入れた。見る限り、店が出来そうなぐらいの釣り道具が並んでいる。ライフルに見えなくもない。
電気が自動で点くと、パープルはシャッターを閉め、階段に向かった。向かう先は地下。
並んでいる品が本当に釣り竿で笑みがこぼれたエマは、パープルが姿を消すと、静かに後を追いかけた。

そして、地下室。
エマの前に現れたそこは、やはり物で溢れていた。
武器、武器、武器。武器の嵐に、エマの口から自然に疑問がこぼれた。
「何でこんなに集めたの?」
パープルの答えは短い。
「成り行きだ。」
彼が急いだ先はリフト。まとめて揚重するのである。
苦笑したエマは、博物館でも巡る様に、部屋の中を眺めて回った。
A国軍並みの品ぞろえである。
つまり、好きな武器があるということ。
ケース付きのオンタリオM11EODは、エマに選んでくれと呼んでいる。
エマは、腰のベルトに、笑顔でケースを通した。
流行のスターム・ルガーLC9は、外せない。
軽く開いた弾倉は満タン。音は軽い。
お守り替わりにLC9をブルゾンに潜ませたエマは、取敢えず、リフトに向かった。
彼女を待っていたのは、八十一ミリメートル迫撃砲M81。大物である。
後から来たパープルは、また違う火器を手にしている。
「やっぱり、戦争でもないのに迫撃砲を撃つと、捕まるよね。」
エマの軽口に、パープルは小さく笑った。
「それが必要な時に使わなかったら死んでる。気にすることはないだろう。」
納得の答えである。
その後も何往復かを重ね、エマとパープルは幾度かすれ違った。
どんどん武器は大きくなっていくかもしれない。
極めつけはブローニングM1919重機関銃。
代車を引くパープルに、エマは笑いが止まらなくなった。

更に往復を重ねたエマは、静かな胸騒ぎが不安である事を、ゆっくりと認識し始めた。
これだけ武器を使う状況が想像できない。
こちらは二人。
少なくとも、長い戦いになるということ。
それは、間違いないのである。
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