第110話 昇天

文字数 558文字

走馬灯の終わりに、ブレンダンは祖父母を見た。
幼い日を一緒に過ごした父方の祖父母。
ブレンダンの親戚の中で唯一、彼が死を認識している存在である。
おめかしをした彼らは、昼の眩いばかりの光に包まれ、ポピーの咲き乱れる庭を歩いていた。
前に進んでいるのか、いないのか。
いつの記憶かもよく分からないが、とにかく、ブレンダンを見て、笑っている。
久しぶりの二人の笑顔は、やはり優しい。
距離感は掴めないが、祖母は手を伸ばすと、ブレンダンの頭を撫でた。
祖父母の動く早さも、よく分からない。
ブレンダンは思った。
走馬灯を見た。
死ぬことは確実である。
この世から姿を消す時、儚い細胞は、光を発すると言う。
走馬灯と言うと妙にドラマチックだが、すべてはあの光ではないか。
脳の細胞が、最期に見せる光。犬も鷲も、何なら魚も虫さえも、見るかもしれない。
勿論、根拠はない。
ブレンダンは、ジョンに少し影響されたのかも知れない。
そして、彼の思考は止まらない。止まるのが怖いのかもしれない。
ブレンダンは思った。
走馬灯で一気に辿ったせいかもしれないが、人生自体があっという間だった様な気がする。
何なら、今、走馬灯を見たのか、ずっと走馬灯を見ていたのか。
永遠なのか。一瞬なのか。いつ起きたことなのか。
何も分からなくなったブレンダンの視界は、やがて真っ白な光に包まれた。
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