第49話 発見

文字数 1,300文字

S国F州Gのビル街。観光地であるその街に、二階建ての事務所ビルがある。
アッシュ・グレーの煉瓦造。二面はビル、二面は歩道に面する角地。
スカイ・グレーの石畳と一緒に、町の景色をつくっているのは確かである。

いつもと同じ様に時間が過ぎ、ビルが暗闇に包まれた頃、歩道のマンホールの周りに、いつもとは違う男の影が集まった。
十三人。一人は警備員姿だが、他は全身ブラック。
夜にブラックの目だし帽をかぶっている時点で、この世の住人ではない。
ブラック・カラーの一人が指示を出すと、一人が鞄を開け、立入禁止の柵を立てた。
指示を出した男は、隠せない程の長身。
ローデヴェイクである。
一行は、警備員姿の男を残すと、バールでマンホールを開け、流れる様に地下へと降りて行った。

地下は下水道である。
彼らが作業するのは、今日で三日目。
壁の仮設照明を点けた一行は、荷物を広げると、作業に取掛かった。
彼らの作業とは、事務所ビルの輪郭に沿って、爆弾を仕掛けること。
とにかく、それがステファヌスの指示である。
昨日までに、九割方の削孔を終えている。
ダイヤモンド・カッターを継足すだけの地味な作業。臭いと戦う汚れ役である。
皆が待った次の展開が訪れたのは二時間後。
ダイナマイトの挿入である。ニトロ・ゲルに導火線を繋げながら押し込むのに、大した時間は要らない。
ローデヴェイクは、起爆装置の結線が終わるのを見届けると、小さく声を上げた。
「戻ろう。」
一行は、すべてを残し、マンホールから地上へ抜け出した。
留まりはしない。
目立つ彼らは、その場にいてはいけないのである。
ただ一人、警備員姿の男は、道を渡り、交差点から周囲を見渡した。
人がいないことを確認したのである。
男は、ポケットから何かの端末を取出すと、ボタンを押した。
起爆装置である。
秒で爆発。
衝撃は連鎖し、連なる歩道の石畳は、大きな蛇の様に波打ち、砕け散った。
ビルとの合間のタイルも一緒。
スモーキー・ホワイトの煙がまとまって、ゆっくりと上がったのは、その後のことである。
やがて、すべてを覆っていた煙が消えると、ビルを囲む堀が現れた。
人が立寄る事は不可能。誰が見てもそうである。
仕上りを確認した男は、集まり出した野次馬を避けながら、その場を後にした。

十三人が乗る三台のSUVが向かう先は、ステファヌスのプライベート・ジェットが待つ飛行場である。
ハンドルを握っていた男が、ローデヴェイクに静かに話しかけた。
「サミュエルは驚くかな。」
「送金場所の一つを突止めたと教えただけだ。首切りと比べれば、驚く程じゃあないだろう。」
ローデヴェイクの声にも力が見えないのは、罪の意識のせいで間違いない。
男は、しばらく車を走らせると、また口を開いた。
「怒るかな?」
ローデヴェイクは、呟く様に答えた。
「だろうね。それに恐怖。猜疑心。悲哀。喪失感。あとは、好奇心、期待感、…。」
男は小さく笑った。
「確かに、人間だから、何か考えるね…。」
ローデヴェイクは、静かな車内を見渡した。笑うところだと思ったが、皆の目は死んでいる。
「早めに連絡をくれればいいだけなんだけど。」
ローデヴェイクも気持ちは一緒。
誰だって、法は破りたくないのである。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み