第96話 暗号

文字数 959文字

地方捜査局の会議室。
連邦捜査官のロレンツォは、数週間前から市場に出回る噂の紙幣の画像を順番に眺めていた。
誘拐事件の捜査を打切られた彼は、ブラック・ドットにつなげるために、国内の不思議な情報を集めていたのである。すべては、消えたニコーラのため。

紙幣は二十ドル札が主体。
書かれていたのはクローン技術のこと。
ロレンツォも知る国家機密である。
科学技術部によると、インクは溶剤系で比較的レア。合致する製品はなく、幾つかの染料をブレンドしている。
使ったのは、インク・ジェット・プリンターであること以上は分からない改造品。
ロレンツォは、この時点でスカーレットを疑ったが、回収される金額は、彼女に出来る限界を超えている。もっと大きな何かが動いているのである。

紙幣に書かれていたのは、クローン技術に関する情報だけではない。
オレンジ、パープル等の色と四桁の数字の組合せ。
落書き自体が犯人の目的ならいいが、この情報が示す次のイベントがあれば、危険である。A国最大のテロ事件の前にも、似た様な悪戯があった。
しかし、幾ら考えても、具体的なアイデアは浮かばない。
悩めるロレンツォは、ただ紙幣の画像を睨んだ。
クローン技術の軍事利用 オレンジ 13 45
クローンの脳の成長を意図的に遅延 ブラウン 52 43
死刑囚の臓器を集めてAIを搭載 レッド 24 51
AI搭載兵士は、記憶を奪われた人間 ブルー 35 21
AI搭載兵士の脳の一部は人間のもの グリーン 13 24
AI搭載兵士は、三歳でフル・メタル・ジャケット ホワイト 45 41
文章の内容は予め知っていることばかりだが、問題は四桁の数字。
二桁の数字二つにも見える。一から五の数字はポリュビオスの暗号表を思わせるが、色との関係が分からない。
数字の順序のアルファベットを持ち出し、該当する略語を探しても、何の共通点もない。
数字の大小の順に色を並べ、機械的に改行しても、何の画像も浮かばない。
余す所、素数のある紙幣だけ選んで観察したが、それはロレンツォの流儀に過ぎず、何も得るものはない。
暗号専門の捜査官に、何か月でも睨んでもらう他ないレベルである。
疲れたロレンツォの頭に浮かんだのはスカーレットの顔。
クローンと言えば、彼女。
被害者にも加害者にもなりうる彼女を監視すれば、絶対に間違いないのである。
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