有希の冒険 喜津根温泉にて(1)
文字数 2,291文字
因みに……、
今回、政木の大刀自との謁見の段取りばかりでなく、有希の部屋の予約など、宿泊に関する一切の手続きは全て
勿論、実質の作業は政木家中の狐侍が行ったのだろうが、矢張り、その指示をした彼女には感謝すべきだろうし、
さて、その有希の部屋であるが……。
今夜の宿とする喜津根ホテルは、老舗ホテルらしい落ち着いた趣きのある純和風の部屋から、展望を楽しむことの出来る明るいスイートルーム、雄藩の家中の者たちの大宴会ですら出来るであろう大広間など、多彩なニーズに応えられる様、バリエーション豊かな部屋や設備が整っている。
そんな中、有希は未成年の為、宴会場に一席設けると云う訳にも行かないだろうと、
ここは小説家などが執筆の為、こっそりと籠るのによく使われるとのことで、仄暗く鄙びた雰囲気の中にも、調度品や一寸した置物などに細やかな配慮が感じられる、贅沢な小部屋であった……。
有希はチェックインを済ませると、先ず部屋を確認したいと、
その部屋は、日暮れには未だ時間もあり、カーテンで閉ざされたにも関わらず、仄かな明かりに包まれていた。
有希と
「いい景色ですね。本当、素敵!」
そう言いながら、有希は
「気に入って貰えて良かった……」
そこで有希は、
「ねぇ、
「え?」
「
「さぁ、どうかしら……。そうなってみないと、私にも分からないわね……」
「
「ご免なさい。私はこれから、屋敷で色々としなければならないことがあるの……」
「忙しいのね、
「ええ。でも、私が頑張れば、私たち妖怪と有希ちゃんたち人間が、ずっと仲良く暮らせる世界がきっと来る……。私はそう思っているの。その為だったら、少しぐらいのことで大変だなんて、言ってられないわ……」
有希は景色にも飽きたのか、部屋の中央にある卓袱台に戻り、2人分のお茶を準備し始めた。
「でも
「うん。有希ちゃんの言うことは正しい。でもね、誰もが人間とのことを理解している訳じゃないのよ……。オサキの里みたいに、充分に教育が行き渡っていない土地もあるの。そう云う人たちから、人間に対する偏見を無くすのは、とても難しいことだわ……」
有希は、オサキの里の人たちと、それを襲っていた人間のことを思い出した。
彼らが人間を怖れているのは、偏見からだけなのだろうか……。
「私ね、政木の大刀自様の本当の孫じゃないの……。大刀自様には、お子様がいらっしゃらなくて、父上様もご養子だし、私も父の養女なの……」
「……」
「私、数多くの狐の中から、一番優れた娘として選ばれて、政木の養女になったの……。
私、おばあ様から選ばれたのよ!!
おばあ様は、優れた能力を持つ私を選んだ。でも、その能力は神様が私を選んで与えたもの……。私は神様に選ばれた……」
「……」
「ええ、勿論自慢よ……。
でも、その自慢は責任も伴っているの。私はその責任を果たす義務がある。全ての妖狐を導く者として、そして、全ての妖狐が幸せに暮らしていける世界を作る為の、礎となる者としての義務が……」
有希は、
それでも有希は、
「ご免、つまらない話を聞かせちゃったね。私、屋敷に戻るから、有希ちゃんは、のんびりしていってね。明日、迎えに来るからね」
「寝坊しないかしら?」
「大丈夫よ。ここは政木の領内。時間は過ぎないわ。あなたが起きた時が朝。そして、何日滞在しようとも、その日の朝が、次の日の朝になるから……」
そうして襖を開き廊下に出ると、
「じゃ、また明日会いましょう」
その後暫の間、有希は