有希の冒険 模造品(5)
文字数 2,032文字
純一の戦意の無い態度に、
「どうしたの? 闘わないの?」
「どうも、か弱い女の子相手に本気になれないんですよ……。例え、相手が妖怪の女の子だとしてもね……」
その彼の返事は、プライド高い
怒りに燃える彼女は、純一に向かい一気に拳を振り回し攻勢を仕掛けてくる。しかし、その単調な攻撃は、純一には
「止めて! パパ! どうして、そんな、弱いもの
純一の戦闘力も、
確かに両方とも有希への脅威では無かった為、正確な力量までは計れない。しかし、力の大小比較であれば、計ることだけは何とか出来る。そして、その精度の悪い状態であっても、有希には、どちらが勝つかだけは確実に言うことが出来た。その理由は明確。2人には天と地ほどの力の差があったからだ。
しかし、味方である筈の有希の叫びは、より一層
最初、有希の父親が相手であったので、相手に大きな怪我をさせず、負けを認めさせて決着を付ける肚心算だった。
だが、相手は彼女の攻撃を嘲笑う様に、容易くそれを
「
無数の青紫色の狐火が、咲き乱れる紫陽花の様に純一の周囲をぐるりと取り囲む。しかし、純一は一向に驚いた素振りも見せず、地面の砂を右手に掴み、自分の頭上にパアっとばら撒いた。
それは、力士が塩を撒く姿の様でもあった。砂は純一の周りに出来た旋風に巻き上げられ、何時までも彼の周囲を漂っている。
呆然とする
「これは耀子の技なんですけどね、冷却した砂を宙に舞わせ、気流を使って自分の周りをガードさせる。まぁ、冷気のバリアみたいな防御法ですよ」
彼女の得意技をいとも簡単に防いでおきながら、純一は当たり前な表情をしている。
「
純一はその武器も、その武器の恐ろしさも知っている。この剣は相手の皮は斬らずとも、内部の肉や骨を斬ると云う変幻自在の妖刀なのだ。
ただ、その使い手は、純一に比べ、余りに熟練度が足りなかった。そして、その使い手は純一の恐ろしさを全く知らなかった。
純一に思いっきり斬りかかった
「な、何をしたの?」
「何も今はしていませんよ。剣自身が僕を怖がって逃げたのです。分かりませんか? 僕の周りには空気の壁があるのですよ。今度は空気を圧縮してみました。少し加熱もしましたけどね……。その剣は高熱の空気の壁を恐れたのです」
「く、くっ……」
「どうです? もう、あなたには勝ち目は無いでしょ? もう負けを認めてください。終わりにしましょうよ」
そう言われて、「はい」と言う
「テツ、何を遊んでいるのだ? 早く片を付けろ。その子狐に自分が無力だと云うことを、はっきり分からせてやれ!!」
耀子が戦士の出入口から指示を出す。
本来、ここは戦闘中、太い木の柵で閉じられるものだ。だが、観客席から平然と飛び込んでくる様な戦士たちの闘いでは、もう、それも意味がなく、柵はずっと閉じられないままであった。
「分かったよ……。五月蝿いなぁ……」
純一は面倒臭そうに妹に答えると、今度は
「仕方ないなぁ……。悪く思わないでくださいね。あなたを嬲り殺しにすることを……」