有希の冒険 模造品(8)
文字数 1,430文字
「要殿……」と、政木狐は右手を差し延べ、言葉を漏らす。
「大刀自様、申し訳ありません。しかし、彼女は真実を知るべきです。彼女がこうなっているのも、大刀自様が彼女に真実を伝えていないからではありませんか? それで、あなたが恨まれたり、また、彼女が傷つくのであれば、仕方の無いことです……。でも、僕は、彼女はそれを受け止めた上で、しっかりと前に進めると信じていますよ。だって、彼女は
純一は
「
「
この時空の大刀自様は、僕の元の時空、そこの大刀自様と精神を交換した時に、自分の時空に無いものが在ることに気付かれた。それが大悪魔の耀子や盈さんの存在だ。だが、時空間での多少の違いは儘あるものの、別にそれは大した事じゃない……。それより、あの時空とは、もっと重大な差異があった。それが政木家の宋女、白瀬
そして、遂に我慢しきれなくなったここの大刀自様は、あちらの大刀自様と図って1つの禁呪を用いたのだ」
「禁呪?」
「ああ、それは難しい術ではないが、倫理的に議論のある術なんだ。大刀自様は自分の魔力の集まる臍下丹田の細胞を幹細胞化させ、それにあちらの
「まさか?」
「ああ。大刀自様は、それを1人の借母の胎内に納め、その子の成長を待った。養女とする為にね……。
もう分かるだろう。それが君だ。
君は見事に成長した。狐火の技に限って言えば、元の
だが、君はそこで成長を止めてしまった。君は妖怪と人間との問題、つまり、政治の世界に興味を集めていった。
政木の大刀自様の望んだのは、そう云う君ではない。もっと強く、自らの妖力の後継者とも云うべき妖狐だ。
勿論、政治に関わるのは悪いことではない。だが、君にはまだ早い。君はもっと修行すべきだ。だが、君は……」
「よく、分かったわ。つまり、禁呪まで使って創ってみたけれど、満足できるものではなかった。だから、もうリセットしよう。あるいは遣り直そうと云うのね……」
「
「大刀自様、良いのです。私はあなたをお恨みなんか致しません。確かに、色々と無理してきたかも知れませんが……。でも、それはそれで、私は幸せでした。
結局、私は偽物の模造品なのですね。本物からは見劣りするし、力も足りない……。そして、創られたものだから、不満であれば壊されても、文句なんか言えない……」