ミメの伝説 アルウェン消滅(7)
文字数 1,435文字
彼女は、純一の『十の思い出』と同じ様なものだったのだろう。実体もあり、生命活動はしていたが生命ではない……。
彼女は光の粒となって、耀子の腕の間からドライアイスの霧の様に空間に広がっていき、そして、それが幻だったかの様に、跡形もなく消えていった。
こうして伝説のミメ、その残思念、アルウェン・スピリットは、ここに消滅したのである……。
最初に立ち上がったのは、それまでアルウェンを抱えていた耀子だった。
「行こう、テツ……。私たちが、やるべきことをしに……」
そして、耀子は自分自身を叱咤する様に、心の声をハッキリと口にする。
「アルウェンの言う通りね……。やる前に結果など考える必要はないわ……。考えなくても終われば結果が分かる。帰る選択肢など私たちにはもうないもの!」
そして盈も続く。
「耀子の言う通りだ。それに、アルウェンが切り札だと言ったのだ。馬鹿にしたものでもあるまい。行こうではないか? それで駄目なら……、別の時空に逃げるだけだ……」
純一少年も立ち上がった……。
そして上を向く。
「行きましょう。でも、僕は逃げませんよ。ここは僕の時空ですからね……」
それを聞いて、盈も耀子も満足そうに微笑んだ。彼女らも自分の時空を護る為であれば、最後まで足掻くに違いない。それが、言わば耀公主の矜持だからだ。
だが、2人とも自分の時空でなくとも、最早、逃げることはしないだろう。ここは仲間の時空。野盗の様な悪魔だった頃と違い、今の2人に取って仲間は、もう何よりも大切な存在となっていたのだ。
「ところで誰でしょうね、助っ人は?
もしかしたら師匠かなぁ? アルウェンなら、別時空からでも助っ人を召喚できそうだし。師匠だったらいいな……」
純一少年は、そう言って笑みを浮かべた。
そう。何時までも悲しんでいるのは大悪魔らしくない。仲間の死は忘れ、笑って前に進む……。それが悪魔の流儀の筈だ。
すると、それに呼応する様に、盈も彼に軽口を返してくる。
「そうだな、氷の兄さんでもいいな……。
しかし、炎の兄さんは駄目だ。それに、女王やガーゴイルじゃ役に立たんぞ……」
「まぁ、あいつらだったら、いない方がましですね……」
耀子が思い出したように言葉を漏らす。
「アルウェンは女だと言ってた気がするぞ」
「あれ? そうだっけ? まさか……、別時空の耀子じゃないよな……。それだけは勘弁して欲しいなぁ……」
純一はそう言って笑うと、背中を少し出して黒い羽根を伸ばした。
それを見た盈が、呆れた様に注意する。
「ところで鉄男……。お前、ファージの頭部まで飛んで行く心算か?」
「テツ、あんた馬鹿? 頭までどの位あると思っているの? 東京からロス位は優にある距離よ。ステルスモードだって、何日掛かるか分からないわ……。
第一、ここには空気が無いから、気流は起こせないし、
「え、そうなんだ……? じゃ、どうするんだ?!」
「良いか……? 良く聞け!
私が『瞬間移動』の呪文を唱え、核の手前まで移動し、『浮遊』の呪文で一気に核の中へと突入する。あとは脅威を検知し、呪文を撃ちまくるだけだ……」
盈はこう言って2人の悪魔を手招きする。
純一と耀子も盈の言葉に頷くと、盈の傍へと近付いた。そして、盈が代表して『瞬間移動』の呪文を唱える。
その数十秒後、盈が唱えていた『瞬間移動』が完成した瞬間、3人の姿はファージの底部から一瞬の内に消えていた……。