有希の冒険 父、叔母、そして母(2)

文字数 1,405文字

「先ず、僕の攻撃を構えて受けてくれ」
 そう言ってから、純一は有希に『攻撃が無い』の意味を説明する。

「いいか、僕が編み出した格闘術では、攻撃は特に無いんだ。あるのは『構え』だけ。この『構え』から次の『構え』への移行が攻撃になっているだけなんだよ」
 純一はそう言ってから、棟梁に向かって、空手の構えに似た右自然体で構えた。そして、その状態で数秒制止した後、一瞬で左右の正拳突きと右前蹴りをして、また右自然体で構え、そして制止する。
「今のは右自然体から、構えている位置を前に移動しただけだ。その移動の為に歩いた時の手を振った動きと、足を前に出した動きが攻撃になってるだけ。そんな感覚だ。だから、殆どが『構え』で、攻撃の動きは瞬きの様な一瞬の動きだけなんだ」

「こんな感じですか?」
 今度は棟梁が、中段に構えた状態で制止し、純一の面を2度攻撃し、純一にいずれも体を左右に開いて(かわ)されると、そのまますり抜けて、振り返りざま再び正眼に抱え、その場で制止する。
「そうそう。そんな感じ。結局、この、幾つかある『構え』の移り変わりの組み合わせが、攻撃の型になっていくんだ。ほら、有希もやってごらん……」
 有希のも大分近い動きになったが、やはり様にはなっては来ない。

「う~ん。この短期間では無理かなぁ……。仕方ない。体術は諦めよう。魔法も悪魔の力も有りで闘うかな……。
 有希、腕輪を外して、何でも有りで闘おうか。あっと、その前に……」
 純一は自分の懐から、一つの水晶玉を取り出した。そして、それ有希に手渡す。
「これは有希の琰だ。これをパパの額に当てれば、パパの生気を吸収できる。さっき借りた分を返さないと、有希は闘えないからね」

 有希はそれを受け取った。だが、直ぐにはそれを使わず、矢張り、純一に同じ疑問をぶつけてしまう。
「パパ、一体何を考えているの?」
「有希はこれから、パパを倒し、耀子叔母さんを倒し、盈さんとも闘わなければならないんだ。
 勿論、簡単なことじゃない。
 格闘も、悪魔の力も、呪文も、持っている力の120%で闘わないと、とてもじゃないけど、そんなこと出来やしない。
 でも、有希はそれをやらなければいけないんだ! いいね! 分かったね!!」
「でも、そんなことしたら、パパ、死んじゃうかもよ……」
「パパのことなら、もう死んでもいいんだ。パパはもう終わっているからね……。それは耀子叔母さんも、盈さんもそうだ。
 いいか、必ず全員倒す心算でやるんだぞ。そうしないと、本当に地球が危ないんだ。地球だけじゃない、太陽系の全てが危ないんだ。いいね。さあ、その琰を使いなさい」

 有希は琰を使った。加減は分からなかったが、先ほど自分に純一が掛けたのと同じ位の時間にした。恐らく、それで純一は死なないだろう……。
 有希は生気を取り戻した。そうしてから、彼女は腕輪の暗唱コードを入力する。有希の能力を抑制していた腕輪も無くなった。有希は完全な悪魔として復活したのである。
 だがしかし、この後、有希が純一と闘うことはなかった……。

「おい、見ていられないな。もう替われ。私がやる!」
 耀子はそう叫び、誰の許可も無しに闘技場の中に勝手に入って来る。そして、皆が唖然とする中、耀子は純一の胸倉を掴み、彼の懐から守り刀の韴霊剣(ふつみたまのつるぎ)を取り出すと、その剣をそのまま純一の額へグイと押し当てた。
 純一と彼のお守り刀は、何かに反応した様に、強く眩く輝き出す……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み