有希の冒険 ヌルデ村の戦い(5)

文字数 1,310文字

 城兼が村の表門を飛び出してみると、表門の面前の地面に、独鈷と呼ばれる道具が刺さっている。恐らくそれが、村の八方の出入口に埋め込まれ、それで妖狐の能力を封じ、弱体化させている元凶であろう。
 だが、八角の内の一角でも破壊すれば、村に掛かっている魔封じの結界は、恐らく無効化される筈だ。

 城兼は右掌を開き、それをギザギザのついた黒い円盤へと変形させた。
 そして、それを左手で掴み、右手首を()ぎ取ると、変形した右掌を手裏剣として、そのまま独鈷目掛けて投げつける。
 その右手で創られた手裏剣は、ラジコン飛行機の如く自在に操られ、香水瓶の栓の形の法具に命中して、独鈷をガラス瓶であるかの様に簡単に砕いた。
 そうして、その後、ブーメランの様に戻って来た手裏剣を、城兼は左手でキャッチし、元あった右手首の位置へと付け直す。すると、手裏剣に変形していた右掌は、再び普通の手の形へと戻っていった。

 その付け直した手首を左手で撫でながら、城兼は独り言を呟いた。
「ふ~ん、手を外して着け直せるだけの、情けない大悪魔能力だと思ってたけど、僕の能力と組み合わせると、こんな面白いことも出来るのか……」
 実はその呟きは、城兼自身とは別の意思が発していたのだが、そのことに気付く者は、今この村にはいない。

 因みに……、ハンターたちも、独鈷の護りをしていなかった訳ではない。
 独鈷の監視を命じられ、村から出てくる者を追い払う役目の者も当然の如くいた。そして、そのハンターたちも、独鈷が壊されるのを黙って見ていたと云う訳でもない。
 彼らも、ちゃんと城兼が出て来るのを目にし、相手からも見える位置まで姿を現している。だが、時既に遅し……。敵は村から出るや否や、右手を飛ばし独鈷を破壊してしまったのだ。もう結界を護ることは叶わない。
 ならば、独鈷を壊した妖怪を狩って、鬱憤を晴らすしかないだろう……。

 だが……、
 監視を命じられたハンターは5名。正直、皆、経験の浅い新参者であった。

 仮に結界を壊さんと村人が出て来たとしても、結界に因って妖力を封じられた村人相手だ。こんな監視に熟練者を配置する必要など無いと考えるのが普通だ。
 それに、ハンターの多くは、結界の外に妖怪が出て来て独鈷を破壊するなど、(そもそも)、あり得ないと考えていた。だから、この監視役は狐狩りに参加し損なう可能性が高い。彼らは独立採算性だ。ならば、熟練のハンターであればある程、監視役を好まなかったのは仕方ないことであり、そんな端役はどうしても新参者に回されるのである。
 そう云う訳で、城兼を取り囲んだのは、彼の相手にならない、新人ハンターたちなのであった。

 ん?
 城兼はその新参ハンターに一瞥をくれる。
 彼は有希には「人を殺すな」と言った癖に、自分にそんなルールを課す心算は更々なかった。自分を殺しに来るならば、彼らを容赦する気など端から微塵もない。
 彼らが幸運だったのは、城兼に睨まれたことで手足が()くみ、身動きが取れずに、結局、何の手出しも出来なかったことだろう。
 手出しをしない相手にまで、城兼は襲い掛かったりしない。
 結局、彼は、そのまま表門の方に向き、悠々と村へと帰って行ったのである。
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登場人物紹介

新田有希


新田純一と美菜の娘。耀公主に匹敵する悪魔能力を有し、伝説の乙女の力を受け継ぐ最強の大魔法使い。

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。

月宮盈(耀公主)


耀子が住み着いている時空に先住していた悪魔殺しの大悪魔。耀子と鉄男に自らの能力をコピーさせた。

アルウェン・フィ・ミメ(アルウェンスピリット)


太古の昔に存在したとされる善為す処女。無敵の魔法とミメの太刀と云われる小太刀の技の使い手。

白瀬沼藺


鉄男の恋人であった雷獣・菅原縫絵の生まれ変わり。妖狐の術と雷獣の力を併せ持つ。通称霊狐シラヌイ。

政木沼藺


鉄男の時空の沼藺。この時空では、オシラサマの養女ではないらしい。

政木風花


政木沼藺の義理の妹。

政木の大刀自(政木狐)


妖怪層、政木領を統べる仙籍の肩書を持つ妖狐界の大立者。他時空の政木狐と記憶を共有できると言う。

逢坂早苗(旧姓小野)


耀子と鉄男が東京協立大付属中学に編入して以来の耀子の大親友。

真久良


オサキの里、ヌルデ村の棟梁である妖狐。

城兼


オサキの里、ヤマハゼ村の棟梁である妖狐。

ルナルド


オサキの里、ヌルデ村に住む妖狐の少年。

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