有希の冒険 ヌルデ村の戦い(3)
文字数 1,514文字
その間、真久良は村の中央に陣取り、他の居残り組のオサキ狐も、村の八方に分かれハンターたちの動向を監視している。
そして有希は、村全体に『矢封じ』の呪文をかけ、危険な火矢による焼き討ち攻撃に備えていた……。
これは、真久良と有希で相談して決めたことである。
矢での遠隔攻撃が封じられると、敵は武器を持って村を力攻めして来るだろう。そうなると、真久良たちがそれを迎え撃つ形になって、勝負は恐らく、村付近の山野での白兵戦に持ち込まれる……。
白兵戦となれば、個の力で優るオサキ側にも充分に勝機がある……。
それが有希たちの読みであった。
だが、奴らは想定外の方法を採ってきた。村全体に魔封じの結界を張り出したのだ。そこで妖怪の防御能力を封じつつ、何らかの手段で村を遠隔攻撃する肚らしい。
オサキの物見や真久良が、それに気が付いた時、結界は既に完成していた。言い換えると彼らは妖力が封じられたことにより、相手の作戦に気が付いたのだ。
動揺するオサキ狐を見て、有希は腕輪を一旦外して、自らの能力を確認してみる。
呪文も能力も封じられていない……。
有希は充分に闘える。
有希は腕輪を直ぐに嵌め直した。今は、少しでも生気を節約しておかねば……。生気は有希の生命線。ここで無駄にする訳にはいかないのだ。
有希の元に、たった今、住民の移送を完了した城兼が戻って来た。
「お嬢ちゃん、お前さんは大丈夫か?」
「ええ、私は妖怪でなく人間ですから……」
その時、上空から直径1メートルはある巨大な火の玉が落下してきた。どうやら、敵には『火球』の術を使う者がいて、相手の遠隔攻撃は、この術で行う心算だった様だ。
有希はそれに呪文を唱え、村に落下する数十メートル手前で花火の様に粉砕する。
それを見た城兼は、豪快に笑った。
「お前さんを人間だと思っているのは、お前さん1人だけだ。ハンターたちは、手強い大妖怪だと思っているし、俺達は頼もしい化け物仲間だと思っている!」
「化け物は酷いですね……」と、有希も吹っ切れた様に少し笑う。
すると、逆に城兼が真顔に戻って、有希に注文を付けてきた。
「お前さんなら、あいつらを全滅させることなんか容易いだろう……? だがな、お前さんが人間だと言うのなら、人間を殺すべきではないな。あいつ等を1人も殺さないで、人間どもを降参させてみろや……」
「1人も殺さないで? そんなの無理です」
「じゃ、人間なんて辞めちまいな……」
「兎に角、相手のリーダーと交渉してみようかと思います……。駄目なら、仕方ないですけどね……」
「まぁ良いだろう。お前さん1人で行って、ハンター全員やっつけて来いや……」
「でも、その間、村は攻撃を受けてしまいますね……。それが心配で……」
「それなら大丈夫だ。その間は、俺が村を守ってやるからな」
有希は城兼の目を見た。
そして、少し考えてから村の外へと一気に走り出す。城兼は、そんな有希を、満足気にじっと見続けていたのだった……。
「城兼、大丈夫か?」
真久良が、何とか人間の姿で城兼の状況を確認する。他のオサキ狐はもう、人化の術も満足に維持できない。ここに残っていたあのレナルドも、狐の姿で逃げ帰っていた。
「ああ、俺は大丈夫……。とは言っても、魔封じの結界は少し厄介だな。そいつは破壊しておくか……」
そう言うと、城兼はその巨躯からは想像も付かない速度で走り出し、村の外へと飛び出して行ったのだった。