有希の冒険 模造品(9)
文字数 1,897文字
「新田さん、ギブアップよ。もう、これ以上闘えない。私、政木一族の戦士として見事にここで散ろうかと思ったけど、それすら私には似合わないわ……。
有希ちゃんの叔母さん……、耀子さんって言ったかしら?」
「ええ、そうよ」
競技場に出てきていた耀子がそう答える。
「私、疲れちゃった……。戦士控室まで連れて行ってくれないかしら、風花みたいに。そして、あの金色の薬、私にも頂けません? 体中が痛くて、もう耐えられないの……」
「ええ、いいわよ……」
耀子はそう言って、スタスタと
有希とのすれ違いざま、
「有希ちゃん、ご免ね。3人の宇宙人なんか私1人で倒して、有希ちゃんに迷惑かけない心算だったのだけど。結局、風花と私は1人も倒せなかった……。もう、有希ちゃん1人なんだから、闘わなくていいよ……」
有希がそれに答え、何かを言おう彼女の顔を見返した時……、
それを目にした途端、有希は言おうとした言葉を全て失った。こうして結局、有希は
ゲートを抜けて戦士控室に入ると直ぐ、耀子は肩に担いだ
「私ね、あなたに、2つばかり謝らなければいけないの……」
「どうでもいいわ、私なんか……。私は蔑まれていればいい……」
「本当に
天狗になってみたかと思えば、今度はとことん自分を卑下する……」
耀子は呆れた様に彼女にそう言った。
「それ、どう云う意味? 耀子ちゃん……」
闘技場の明るい場所から、戦士控室の暗い通路に入った為、
目が慣れ、その姿を何となく見ることが出来るようになって、
「分かるでしょうけど、一応紹介するわ。これがもう一人のあなた。私たちの世界の
「そんなことないって。だって耀子ちゃん、魔法まで覚えたじゃない?」
「ほらね。『魔法が無ければ私の勝ち』って言ってる」
「もう!」
そう言って
「何か吹っ切れた気がする。本物に会えて良かった。それに、本物はそんなに強いんだ。私、それに似せて創られたのね……」
「あら、あなただって本物よ。あなたと私は双子みたいなもの。どっちが本物とかではなくて、遺伝子が一緒の別人なんだから。あなたは私の双子の妹なのよ」
「嬉しい! 私、妹はいたけど、上の兄弟っていなくって、姉がいたら、どんなに楽しいかって思っていたの……。何だか、死んじゃうのが勿体なくなってきちゃった……」
「あら? あなた、金丹も知らないの……? そんなことじゃ、大刀自様から1週間は金丹吹きを言いつけられるわね……」
金丹については、耀子がこの世界の
「ここまで死んでいないと云うのに、全然気が付かないの? 本当に困ったものね……。
あれはね、普通に妖怪狐が作る万能薬で、金丹と言う物なの……。そう、こっちの
死者を生き返らせたり、若返らせたりは出来ないけど、後は殆どの疾病や傷害から回復出来るわ。高位の狐が作った物では、不老不死の妙薬と言われる物もあるらしいわよ」
「じゃあ、私は毒を飲んで痛みを感じなくなった訳じゃなくて……」
「ええ、勿論……」
「じゃあ、もしかして……、風花は……?」
「ほら、あそこで、あなたに抱きつきたくてウズウズしているわよ」
耀子が指さした暗闇には、1人の少女のシルエットがあった。
「悪いわね。あなたの為だと言って、ずっとここで黙って待っていて貰ったの……」